「奇妙な米大統領の復権に備える日本」。米ワシントン・ポスト紙は東京発で、「もしトラ」と大きく書かれたニューズ・ウィーク日本版の表紙とＴＶ局のワイドショーのスクリーンショットを掲載して報じた。バイデン米大統領とトランプ前大統領の再対決をめぐる日本の世論は、「もしトラ」から「ほぼトラ」や「まじトラ」に、そして「かくトラ」と「もうトラ」に変わったとしている。

米国の世論は日本と逆方向に動いた。９日発表のロイターとイプソスの米有権者を対象にした共同調査は、民主党のバイデン氏の支持率が約41％と、共和党のトランプ氏の支持率37％をリードした。オンライン賭けサイト「プレディクトイット」の「2024年大統領選で誰が勝利するか」の質問は、バイデン氏52％に対し、トランプ氏45％とバイデン氏が差をつけた。３月中旬まではトランプ氏がリード、３月後半に並び、４月にバイデン氏が逆転した。政治専門サイトのリアル・クリア・ポリティクスによる12日時点の賭け市場の分析は、バイデン氏の勝利確率が42.5％に対し、トランプ氏42.0％。過去６カ月で初めてバイデン氏有利の状況になった。

オンライン経済情報のマーケット・ウオッチは、激戦州のアリゾナ州が人工妊娠中絶をほぼ完全に禁止したことがトランプ氏の打撃になり、不倫口止め料の不正処理をめぐる裁判の公判がはじまることも影響し、バイデン氏再選の可能性が高まったと報じた。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、過去２回の選挙で激戦州を動かした郊外に住む女性有権者の過半数が中絶問題をめぐるトランプ氏の政策は厳しすぎると考えていることが最新の調査でわかったと伝えた。アリゾナ州の中絶禁止についてハリス副大統領は「トランプ氏のせい」と批判、バイデン氏は中絶の自由を支持すると繰り返し表明している。

米大統領選をめぐっては激戦州がいつも話題にのぼる。民主党と共和党の支持率が拮抗、選挙結果を左右する州だ。ＵＳニューズ・アンド・ワールド・リポート誌によると、過去の大統領選の激戦州は類似しているものの、2020年の選挙でバイデン氏が僅差でサプライズ勝利したジョージア州が今年の選挙で激戦州になった。アリゾナ、ミシガン、ネバダ、ノースカロライナ、ペンシルベニア、ウィスコンシンにジョージアを加えた７州。ＵＳニューズは、特にアリゾナ州が重要と伝えた。バイデン氏は伝統的に民主党が強い「ブルーウオール」と呼ばれるミシガンやウィスコンシンなどの製造業に寄与するプロジェクトを発表。トランプ氏は激戦州で積極的に選挙活動を展開している。

大統領選まで７カ月。結果は依然予断を許さない。中絶とならぶ争点である移民と経済。特に経済問題ではインフレの根強さが表面化した。バイデン政権が中東やウクライナ紛争などへの対応を誤れば、トランプ氏が批判を強めることも予想される。ゴールドマン・サックスやＪＰモルガンなど主要金融機関のアナリストが大統領選の影響を分析しているが、金融市場全体はまだ様子見。ニューヨーク・タイムズ紙は、米株式市場はどちらが勝利しても関心がないようにみえると伝えた。株式市場と債券市場は比較的穏やかながら、政治の不安定化で長期の投資家は忍耐を求められるかもしれないとしている。

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福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て、現在は米国ロサンゼルスを拠点に海外情報を発信する。