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サーキットブレーカーとは何か 各国の制度内容や発動基準を直近の事例を交えて解説!

記事公開日 2024/4/19 14:30 最終更新日 2024/4/22 18:47 経済・ビジネス コラム・インタビュー 市場用語再点検 金融コラム

【QUICK Money World 荒木 朋】金融・株式市場において、大きな災害や紛争などが起きると大混乱を招き、短時間で相場が急変動することがあります。そんな時、パニックに陥った投資家に冷静な判断を取り戻す時間を与える目的で取引所がとる措置として「サーキットブレーカー」という制度があります。サーキットブレーカーとは何か?という基本的なことからサーキットブレーカーの発動基準、サーキットブレーカーの過去の事例などについて詳しく解説していきます。

■サーキットブレーカーとは?

サーキットブレーカーとは、株式や先物・オプション市場で相場が大きく変動し、価格の暴騰・暴落が起きた時に取引を一時停止する制度のことをいいます。相場の急落局面などではパニックに陥った投資家は正常な判断ができなくなる場合があります。その際、サーキットブレーカーの発動により取引を中断することで、投資家に冷静な判断を取り戻す時間を与えて相場の混乱を鎮静化させようとするものです。

国によって制度は異なりますが、サーキットブレーカーが発動されると、数十分間取引が中断されたり、場合によってはその時点で取引が終日停止になったりすることもあります。

サーキットブレーカー制度が導入されたのは、1987年10月19日に起こった「ブラックマンデー」と呼ばれるニューヨーク株式市場における株価の大暴落がきっかけです。米国株の大暴落は世界中に波及し、世界の株式市場で大混乱を引き起こしました。この大暴落をきっかけに、米証券取引委員会(SEC)は行き過ぎた相場の下落を防ぐため、投資家に冷静な判断の時間を与える目的でサーキットブレーカー制度を導入するに至ったというわけです。

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■国ごとのサーキットブレーカー発動基準・違いは?

米国で始まったサーキットブレーカー制度ですが、他の国でも同じような制度があり、運用されています。サーキットブレーカーの発動基準や違いについて、米国、日本、中国の状況をみてみましょう。

まずは、米国市場(ニューヨーク証券取引所)の制度をみてみましょう。米国では現在、時価総額の大きい米主要500社を対象とするS&P500種株価指数を対象に、同指数の前営業日終値に対する下落率のレベルに応じて3段階のサーキットブレーカーを発動する仕組みを採用しています。

通常取引時間(9時30分~16時)について、15時25分までにS&P500種株価指数の下落率が7%に達した場合、全ての株式売買が15分間停止され、その後に再開されます。これがレベル1です。S&P500種株価指数がさらに下げ幅を広げ、15時25分までに下落率が13%に達すると、全ての株式売買がまた15分間停止となります(レベル2)。さらに下落率が20%に達すると株式売買は終日停止となります。これがレベル3ですが、この場合は取引時間帯を問わず、20%安となった時点で終日売買停止の措置がとられます。

なお、米国市場では個別銘柄においても株価が急変動した際に取引を停止する制度があります。米国では日本のように、株価が1日に変動できる上下の幅を制限する制度(ストップ高・ストップ安)が存在しません。そのため、個別銘柄の株価の急騰・急落への対応として、一定の基準を設けて5分間売買を停止するなどの取引制限(リミットアップ・リミットダウン制度)措置がとられます。

 

次に日本のサーキットブレーカーの発動基準をみてみましょう。日本では1994年2月に導入されました。米国との違いは、日本では株式取引にサーキットブレーカーは発動されず、先物・オプション取引にのみ適用されている点です。また、上昇・下落の両面で発動される可能性があります。取引所が決めた制限値幅の上限また下限値段で約定があった場合、即時発動されます。取引停止時間は10分間です。

例えば、日経225先物やTOPIX先物、東証グロース市場250指数先物などでは、制限値幅である基準値段比8%高または8%安となった時点で対象先物取引についてサーキットブレーカーが発動されます。その後、制限値幅は段階的に拡大され、騰落率が12%(第一次拡大時制限値幅)、16%(第二次拡大時制限値幅)となった時点で改めてサーキットブレーカーが発動される仕組みとなっています。制限値幅の拡大は上限または下限のうち一方向に限られ、拡大回数は各方向につき基本、最大2回となります。

日本取引所グループが公表しているサーキットブレーカー発動時の制限値幅(指数先物)や制度の概要、サーキットブレーカー発動のイメージは以下の通りです(いずれも出所は日本取引所グループ)。

サーキットブレーカー発動時の制限値幅

サーキットブレーカー制度の概要

サーキットブレーカー発動のイメージ

先にも説明しましたが、日本市場ではサーキットブレーカーが発動されるのは先物・オプション取引で、株式取引は対象外です。ただし、その代わりに個別銘柄に対しては特別気配制度や連続約定気配制度といった一度に大きく価格が変動することを防止する仕組みを採用して対応しています。株価が1日に変動できる上下の幅を制限する「ストップ高・ストップ安」の制度があることも前述の通りです。

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中国は2016年1月にサーキットブレーカー制度を導入しました。上海と深セン取引所の上場主要銘柄300社で構成する株価指数「CSI300」の変動幅が前営業日比で5%を超えると、全ての株式と先物の売買を15分間停止。騰落率が7%を超えた場合は売買を終日停止する制度です。

しかし、中国はサーキットブレーカー制度の導入初日である2016年1月4日にサーキットブレーカーが発動されたうえに、同年1月8日には同制度の停止を発表するなど異例の展開となりました。

■過去にサーキットブレーカーが発動された事例を紹介!

日米中でサーキットブレーカーが実際に発動された事例を紹介します。

米国市場では、2020年3月9日、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大により景気や企業業績の悪化懸念が一段と高まるなか、S&P500種株価指数が取引開始後間もなくして7%超下落し、全ての株式売買を一時停止するサーキットブレーカーが発動されました。発動対象の株価指数は2012年にダウ工業株30種平均からS&P500種株価指数に変更されていましたが、これが変更後、初めてのサーキットブレーカー発動となりました。その後も当時のトランプ米大統領が欧州からの入国禁止措置を発表し、経済活動停滞への懸念が強まったことなどからS&P500種株価指数が急落し、数日間に渡りサーキットブレーカーが発動される事態に発展しました。

次に日本での過去のサーキットブレーカー発動事例をみていきましょう。

2011年3月11日に東日本大震災が発生。週明け3月14日の株式市場で売り注文が殺到するなか、TOPIX先物が制限値幅を超える下落率を記録したことでサーキットブレーカーが発動されました。サーキットブレーカーの発動は、リーマン・ショック後の2008年10月以来、2年5カ月ぶりのことでした。翌日3月15日には日経225先物およびTOPIX先物でサーキットブレーカー発動されました。

2016年6月24日にも日経225先物でサーキットブレーカーが発動されました。同23日に欧州連合(EU)離脱の是非を問う英国の国民投票が実施されていましたが、日本市場の取引時間中に「EU離脱派が優勢」との報道が伝わると円相場が急伸。それにあわせて日経225先物も大幅安となり、サーキットブレーカーが発動されました。

米国と同様、新型コロナウイルスの感染拡大への懸念から売り注文が殺到した2020年3月9日にもサーキットブレーカーが発動されました。個人投資家を中心にしたろうばい売りが止まらず、発動の対象となった指数は東証マザーズ先物でした。

直近では、2022年6月15日の債券市場で先物相場が急落し、大阪取引所は一時的に売買を停止する措置「ダイナミック・サーキット・ブレーカー(即時約定可能値幅制度)」を発動し、債券先物の取引を一時停止しました。世界的なインフレが加速する中でも日銀は大規模な金融緩和を続けていますが、緩和政策修正の思惑が強まったことが債券先物の急落を誘ったといわれています。

 

■長期国債先物相場のチャート

最後に中国です。中国はサーキットブレーカー制度の導入初日となった2016年1月4日に発動されるという異例の展開となりました。人民元安による資本流出への懸念や中国経済の先行き不安が広がり、対象株価指数である「CSI300」の下落率が5%を超えたためです。

その後も何度かサーキットブレーカーは発動されましたが、「売りたい時に売れなくなる」と焦った個人投資家のろうばい売りが株安を誘ったとの見方がありました。サーキットブレーカー制度が株式相場の急落を助長しているとの批判も出るなか、上海・深センの両証券取引所は「想定通りに(サーキットブレーカー制度が)機能しなかった」として、2016年1月8日にサーキットブレーカー制度の停止を発表する事態に追い込まれました。

■サーキットブレーカーをチャンスに変える方法は?

サーキットブレーカーの発動事例をいくつか紹介しましたが、共通するのは、大きな災害や政治的イベント、感染症のパンデミック(世界的大流行)などを受け、景気・企業業績の悪化懸念や投資家の不安心理が強まった時などにサーキットブレーカーが発動されている点であることが分かります。

その場合、金融・株式市場が大混乱し、相場も急落している局面である可能性が高いといえます。サーキットブレーカーは、相場の急落などで投資家がパニックに陥った際、取引を一時停止することで投資家に冷静な判断を取り戻す時間を与えようとするのが目的です。ただ、いったん発生したパニックが短期間で終息することは考えにくいものです。

株価の暴落が続くとネガティブな判断に陥りがちですが、それでもこのタイミングをチャンスと捉えることもできます。なぜなら、優良企業をかなり割安な価格で投資できるチャンスにもなるためです。パニック売りが出ると、本来の企業価値を無視して下げが加速しがちです。相場全体が落ち着けば、割安感が高まった優良企業に投資妙味が増すことになるというわけです。

金融・株式市場が大混乱に陥った場合、政府や中央銀行による経済対策・金融政策が実施されるとの期待も高まります。こうした対策が講じられれば、相場も落ち着きを取り戻す可能性が高まるでしょう。投資の基本の1つは、中長期の目線で企業価値の向上が見込める銘柄に投資することです。相場の急変動局面では「落ちてくるナイフはつかむな」の相場格言通りに極めて慎重な投資行動をすることが重要ですが、一方で企業のファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)を常に分析・評価しておき、相場急変などで本来の企業価値に対して割安感が強まった銘柄の買いチャンスを逃さないようにしましょう。

株取引については、以下のページでご紹介しています。ぜひ参考にしてください。

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■まとめ

サーキットブレーカーとは、株式や先物・オプション市場で相場が大きく変動し、価格の暴騰・暴落が起きた時に取引を一時停止する制度のことをいいます。取引を中断することで、投資家に冷静な判断を取り戻す時間を与えるのが目的です。サーキットブレーカーが発動されると、数十分間取引が中断されたり、場合によってはその時点で取引が終日停止になったりすることもありますが、国によって制度や発動基準は異なります。相場の暴騰・暴落を見極めるとともに、冷静な投資行動をすることによって損失を被らない取引をするようにしましょう。

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著者名

QUICK Money World 荒木 朋

1998年にQUICKに入社。2003年から11年間、日本経済新聞社、日経QUICKニュース社(NQN)で記者職に就く。0609年にNQNニューヨーク支局に駐在。1820年はQUICKロンドン支店に赴任。08年のリーマンショック、20年のBrexitはいずれも現地で取材した。QUICK退社後、ボクシングトレーナーとして働く傍ら、21年から「QUICK Money World」に寄稿。


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