「想定よりはるかに安く済んだ」。米国人の友人は1週間の日本旅行で「おもてなし」を満喫。大谷翔平ファンの日本の知人はドジャースの試合観戦を計画したが断念した。基軸通貨の国、米国の外国為替市場への関心は高いと言えないものの、外国に行ってドル高を意識・享受する。連日「円安」が報じられる中で日本人の海外旅行は相当な覚悟が必要になった。
円相場は4月に入り一段安。円の防衛ラインとされた1ドル=152円を抜けると、ドル買い・円売りが加速。16日に154円79銭まで円が売られた。34年ぶりの歴史的円安。年初は140円台後半、2020年1月は108円前半だった。足元で米国のインフレ統計が予想を上回り、米連邦準備理事会(FRB)の早期利下げ観測は大きく後退。日米金利格差は拡大した。長期金利の指標とされる日本と米国の10年物国債利回りは4%近い差が開いた。金利が低い円で調達した資金を金利が高い国の金融資産で運用する円キャリー取引が活発と聞くが、自然だと思う。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、「ドル安に賭けた代償」の見出しの記事に「米経済ブームで通貨市場が大混乱」との副題をつけて報じた。バンク・オブ・アメリカは今年末の円相場予想を当初の142円から155円に修正、140円近辺を予想していたTロウ・プライスは170円までドル高・円安が進む可能性があると考え、シンガポール拠点のヘッジファンド・マネージャーは「ボラティリティーの高さは予想通りだが、円下落は予想外」と話しているとしている。日本の当局が2022年9月に実施したような円押し上げ介入にいつ動くか、トレーダーは予想に必死だと伝えた。
日米韓は17日の財務相会合で「最近の急速な円安とウォン安への日韓の深刻な懸念を認識する」との異例の声明を発表、市場をけん制した。岸田文雄首相の訪米と国際通貨基金(IMF)年次総会に絡む一連のイベントを通過したため、介入はいつあってもおかしくないとの観測は多い。同時に介入は「時間稼ぎ」に過ぎないとの指摘も少なくない。フィナンシャル・タイムズ紙は、「介入は高額で効果は一時的」とのRBCブルーベイ・アセット・マネジメントの最高投資責任者のコメントを伝えた。日米の政策金利の差は依然大きく、円の不安定な状況が続く可能性は高いとの見方だ。
外国為替市場の行方を探る上で鍵を握る1つは米経済とみられる。インフレおよび雇用の動向と米連邦準備理事会(FRB)の政策の方向。FRBのパウエル議長は16日のイベントで、利下げに踏み切るまでさらに時間を要するとの認識を示した。ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁は18日、自身の基本シナリオでないとしながらも、インフレ圧力を確実に緩和させるため再利上げを迫られる可能性は排除できないと述べ注目を集めた。米金利先物の値動きからFRB政策を予想する「FEDウォッチ」は、19日時点で年内は9月に1回だけ利下げする可能性を示唆。今後発表されるデータやFRB高官発言などで年内利下げゼロの確率が高まる可能性を排除できない。
米国で生活していて根強いインフレを実感する。中東情勢緊迫化で原油が一段高になればドル買い・円売りを招くとみられる。日本の競争力の低下やサービス貿易赤字を市場関係者が意識する。ドル高・円安基調は当面変わりそうにないと考える理由は多い。米国人をはじめ海外からの旅行者が「安い日本」を大いに楽しみ、日本人が大リーグ観戦や好きなハワイに気軽に行けない状況はまだ続きそうだ。
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福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て、現在は米国ロサンゼルスを拠点に海外情報を発信する。