米連邦準備理事会(FRB)の金融政策の手がかりを探る。投資家は7日の株式市場の取引開始前に発表された5月の雇用統計に注目した。小売売上高をはじめ弱い経済指標が相次いでいたが、非農業部門就業者数は非常に強くサプライズ。家計調査をもとにした失業率は上昇したものの、信頼性が高いとされる事業所調査の就業者数を市場は重視した。発表を受け米10年物国債の利回りは4.2%台から4.4%台に急上昇、ドル買いを誘った。主要な米株指数先物は下げ幅を拡大した。
雇用統計は意外に早く材料からはずれ、市場の関心は1つの銘柄に移った。ゲームソフトの小売店を展開するゲームストップ。2021年のミーム株(はやり株)ブームの仕掛け人である「ロアリング・キティ」(ほえる子猫)を名乗るキース・ギル氏は、米東部時間7日正午にYouTubeでライブ配信すると予告。ライブブログを設定したウォール・ストリート・ジャーナル紙やCNBCなどメディアが大きく報じたことで、注目は一気に高まった。
ギル氏は5月中旬にSNS(交流サイト)への投稿を3年ぶりに再開。自身の証券口座のスクリーンショットを投稿、2億6000万ドル(約408億円)相当のゲームストップ株保有とコールオプション(買う権利)大量保有を公表した。ゲームストップ株は6月3日の取引で一時75%急騰、連日急伸した。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、ミーム株の帝王が復活との見出しで報道。「ギル氏の次の一手はなにか、皆をやきもきさせていた」とする投資家向けSNSの調査担当者のコメントを伝えた。
予定から30分ほど遅れて始まった7日の生配信を55万人超が視聴。48時間で236万人がみた。白いフレームのサングラスにバンダナという定番スタイルのギル氏。Yahoo!ファイナンスのゲームストップ株のチャートを背景画に、50分間にわたり自身のゲームストップに対する考えを説明したが、同社株は一時44%安まで売り込まれた。投資戦略など新たな情報はなく失望感が広がり、終値は39%安。ゲームストップは配信に先立ち第1四半期(2~4月)の決算を発表。売上高は減少。クラスA株普通株を追加で7500万株売り出すと発表した。
ニューヨーク・タイムズ紙は、ギル氏のビールを飲みながらの生配信は多くの視聴者を獲得したが、株価は配信前より大幅に下がったと詳しく伝えた。ワシントン・ポスト紙は、「ゲームストップ物語は興味深い現象。投資家は信念を伝えるため現代のコミュニケーション・ツールを使える」とするペンシルベニア大ウォートンスクールのゴールドスタイン氏のコメントを引用。誰もが無価値と考えるゲームストップ株の売買高はギル氏の影響で急増したが、今回は逆の効果に終わったと解説した。
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福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て、現在は米国ロサンゼルスを拠点に海外情報を発信する。