「インフレは大幅に緩和したが、依然高すぎる」。米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は、金利据え置きを決めた12日の連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見でこう述べた。同じ日に発表された5月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比3.3%上昇、変動の大きい食品とエネルギーを除くコアCPIは前年比3.4%上昇。いずれも市場予想を0.1ポイント下回った。中古車価格は前年比9.3%低下した一方、所得の多くを占める住居費は5.4%上昇と高い伸びだった。
FOXビジネスは、バイデン大統領の就任後に生活費は高騰したと報じた。2021年1月以降に住宅賃貸料は21.4%、住宅価格は33.9%、住宅ローン金利の水準は2.5倍に、電気代は29%、ガソリン価格は45%も上がったと説明。「どうやって生き残っているのかわからない」ほど高騰したと解説した。精度が上がったとされるクリーブランド地区連銀のインフレ率予測「インフレーション・ナウキャスティング」は、14日時点で6月のCPIは前年比3.15%に鈍化、コアCPIは3.52%に加速すると予測した。
新型コロナウイルス流行前、米国の物価は日本の1.5倍程度だった。いま日本人は米国は約3倍と感じると思う。ドル高・円安の影響も大きいものの、20年を超す筆者の米国滞在で経験のないインフレ。「ハワイのホテルで家族4人の朝食が3万円もした」とする日本人の投稿がXにあった。チップを20%と想定すると食事代1人あたり約38ドルの計算。これを高いと感じる米国人はもはやいない。ロサンゼルス・ユニバーサルシティ・ヒルトンのカフェのディナー・ビュッフェは149ドル。チップを加えると1人あたり約2万8000円。娘はマクドナルドの朝食が20ドル(約3140円)を超えたのに衝撃を受けた。我が家の住宅保険は前年の倍に上がった。高い価格が下がると想像できない。多くの米国人の自然な気持ちだ。
CBSの報道番組「フェイス・ザ・ネーション」は、「賃金は増えたが、破産しそう」とする複数の有権者の声を引用、有権者の経済に対する不満が高まっていると報じた。英ユーガブとの共同調査で、有権者の72%は生活が苦しいと返答、63%は経済が悪いと答えた。政府統計は米経済の堅調さを示しているが、消費者は好景気を謳歌するどころか日々の生活に苦しんでいる。
ABC傘下の世論調査サイト、ファイブ・サーティー・エイト(538)がまとめた米大統領選に関する過去1週間の世論調査は、1機関を除きバイデン氏の支持率がトランプ前大統領を下回った。賭けサイトのプレディクト・イットは、トランプ氏が勝利する確率は52%と、バイデン氏の45%を大幅に上回った。高インフレに対する有権者の怒りが、バイデン氏の支持率を押し下げているようみえる。6月27日に予定されるCNN主催のテレビ討論会。インフレをめぐる両候補の発言に注目したい。
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福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て、現在は米国ロサンゼルスを拠点に海外情報を発信する。