「これはひどい」。6月27日、CNNのアトランタ本社で実施されたバイデン大統領とトランプ前大統領の討論会をみて正直そう思った。自ら討論会を呼びかけ、何日も前から準備したと伝えられたため、現職の強みを生かしたバイデン氏の攻撃が期待されていた。結果は悲惨。言葉は不明瞭で口ごもる場面が何度もあり、論点がはっきりしない。トランプ氏は事実と思えない発言を繰り返したが、バイデン氏に今後4年を託せないと幅広く受け止められた。
CNNによると、22のネットワークで生中継された討論会を5127万人が視聴した。終了直後にCNNの記者は、民主党はパニックに陥ったと解説した。ワシントン・ポスト紙は、「民主党はパニック状態でバイデン氏の未来に疑問を抱いた」と報じた。欧州のメディアも同様のトーン。フィナンシャル・タイムズ紙は、「バイデン氏の年齢と執務能力への懸念が広がった」と解説した。討論後にCBSがユーガブと共同実施した調査は、「バイデン氏が大統領としてのメンタルと認知機能を維持している」と答えた有権者は27%にとどまり、6月9日時点の35%から大幅低下。有権者の72%が「バイデン氏は出馬すべきでない」と考えていることもわかった。
ニューヨーク・タイムズ紙は、28日付の社説で「バイデン大統領は撤退すべき」と主張。アトランタ・ジャーナル・コンスティテューション紙も「バイデン氏がバトンタッチするとき」との社説を掲載。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、「民主党はバイデン氏の問題を回避できない」と社説で論じた。バイデン氏は火消しに動いた。28日の選挙集会で再選を目指す決意を強調。Xに何度も投稿しトランプ氏批判を展開した。オバマ元大統領をはじめ民主党有力者がバイデン氏を擁護したものの、懸念が収まる兆しはない。
バイデン陣営は選挙運動を継続する方針にもかかわらず、代替候補をめぐる議論は進んだ。NBCの報道番組「ミート・ザ・プレス」は、有権者の動向を民主党が注視していると伝えた。代替の可能性のある候補として、カリフォルニア州のニューサム知事、ミシガン州のウィットマー知事、ハリス副大統領らの名前をあげた。賭けサイトのプレディクトイットによると、30日時点のオッズが示唆するトランプ氏の勝利確率は55%と、バイデン氏の31%に大差をつけた。ハリス副大統領は13%、ニューサム知事が12%で続いた。
討論会翌日の米金融市場は、金利大幅上昇・ドル横ばい・株安で反応した。メキシコペソの下落が目立った。2016年大統領選でトランプ氏が勝利した際は、金利上昇・ドル高・株高だった。バイデン氏とトランプ氏は9月10日に2回目の討論会を予定。CNBCは、2回目の討論会に2人がそろって参加するか不透明になったと報じた。大統領候補を正式に決める民主党全国大会は8月19~22日。バイデン氏問題がどう展開するか注目が集まる。金利とAI(人工知能)に加え、短期的に大統領選が米株式市場の材料になる可能性がありそう。ニューヨーク・タイムズ紙は、長期的な投資では政治をみないほうがいいと警告するコラムを掲載した。
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福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て、現在は米国ロサンゼルスを拠点に海外情報を発信する。