ロサンゼルスでYouTubeを視聴するとオバマ元米大統領の動画が流れる。民主党大統領候補のハリス氏を応援するメッセージ。共和党候補のトランプ氏の応援ビデオは流れない。選挙人数54と全米最大のカリフォルニア州は民主党支持者が圧倒的に多い。近所の住宅に掲げられた看板はいずれもハリス氏支持。カリフォルニア州でハリス氏勝利は確実で、両候補が積極的に選挙運動することはない。遠い親戚が住むノースダコタ州ではトランプ氏支持一色らしい。
全米50州の8~9割の州は支持が固まっていて結果は予想できる。米大統領選は有権者が直接選ぶとみられているが、正確には各州に割り当てられた計538人(上院100人と下院435人、首都ワシントンDC3人の合計)の選挙人による間接選挙。ABCニュース傘下のファイブ・サーティー・エイトによると、16日時点でハリス氏は251票、トランプ氏は219票の獲得が確実だが、いずれも勝利に必要な270票に足りない。鍵はSwing States(激戦州)。特に選挙人数19と激戦州で最大のペンシルベニア州が重要と幅広く指摘されている。合衆国発祥の地とされるフィラデルフィアと日本製鉄のUSスチール買収提案で注目を集める「鉄の都」ピッツバーグの2つの主要都市がある。7月のトランプ氏暗殺未遂事件も今月のTV討論会の会場もペンシルベニア州だった。
フォーブス誌は、大統領選の結果を決める最重要州はペンシルベニア州で過去12回の大統領選でペンシルベニア州の勝者が10回当選したと伝えた。政治学者ネイト・シルバー氏のモデルによると、ペンシルベニア州で勝利すればハリス氏は91%の確率で当選、トランプ氏の確率は96%としている。リアル・クリア・ポリティクスのまとめでは、16日時点でペンシルベニア州はハリス氏47.8%、トランプ氏47.7%と、全米ベースの2.7ポイント差と比べ支持率は拮抗。どちらが勝ってもおかしくない。ワシントン・ポスト紙は、討論会後にハリスが優勢にもかかわらず選挙は最後までわからないと報じたが、ペンシルベニアの世論調査はそれを裏付けている。
10日の討論会以降、米連邦準備理事会(FRB)の利下げ期待も寄与し米株式相場は堅調に推移。JPモルガンのアナリストは、討論会後に市場はハリス氏勝利の可能性が高いとみた動きを示したとのレポートを13日に発表した。トランプ氏勝利は供給増観測で石油価格にネガティブに影響、ハリス氏勝利はバイデン政権のインフレ抑制法とCHIPS法の恩恵を受ける企業にポジティブに影響する可能性があるとしている。どちらが勝利しても、AI(人工知能)競争を支える半導体や重要部品の需要は堅調に推移するとの見方を示した。ブルームバーグ通信の端末利用者を対象にした調査は、ハリス氏勝利はトランプ氏復帰より債券にポジティブに動く可能性を示唆。株式はトランプ氏の方がプラスと考えていることも示された。
米国勢調査局によると、米国の人口は2023年末時点で3億3491万人。ペンシルベニア州の人口は1296万人で約3.9%。人口が全米の4%に満たない州の有権者が大統領選の行方を左右する。選挙まで2カ月を切り、両候補はペンシルベニア州での活動を特に積極化する。「オクトーバー(10月)サプライズ」という言葉が示すように何が起きるかわからず、選挙は依然予断を許さない。15日にはフロリダ州でトランプ氏を標的にした暗殺未遂事件が再び発生した。歴史的に選挙のマーケットへの影響は限定的とされるが、短期的には幅広い市場を動かすことが予想される。選挙戦動向、特にペンシルベニアをはじめとする激戦州をにらんだ展開が当面続きそうだ。
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福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て、現在は米国ロサンゼルスを拠点に海外情報を発信する。