2700店舗を超すスーパーマーケットを全米展開するクローガー。ロサンゼルスの系列店で幅広い食料品や日用品が値引きされていた。ポテトチップスは60%引きで思わず手が伸びた。肉や魚、野菜・果物も安い。独立記念日でもクリスマスでもない普通の週末にこれほどディスカウントされるのは異例だ。
米労働省によると、8月の家庭向け食料品価格は前月比横ばい、前年同月比は0.9%上昇。商務省の個人消費支出(PCE)物価指数を構成する食品は前月比0.1%上昇、前年比は1.1%上昇にとどまった。民主党大統領候補のハリス副大統領を意識したと思えるほど食料品の多くは値下げされ、全体のインフレ鈍化傾向は続く可能性が高い。
ハリス副大統領は9月25日、経済政策の詳細を発表。82ページにわたる計画で、生活費高騰を訴える有権者のため食品業界による「便乗値上げ」との戦いを強調した。評価はまちまち。CNBCは、ハリス氏の計画で違法な便乗値上げの有無がわからなかったと報じた。カンザスシティー地区連銀は、企業の利益追求がインフレに影響したとする研究を2023年1月に発表したが、米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長はサプライチェーンや労働市場がインフレの要因と説明したとしている。ハリス氏は物価安定と並び中間層支援を全面的に打ち出し、法人税率を引き上げると主張した。
共和党大統領候補のトランプ前大統領は、ハリス氏の食品価格抑制策は「ソビエト型の価格統制」と痛烈批判。法人税率引き下げと中国製品の関税大幅引き上げを経済政策の柱に掲げた。ワシントン・ポスト紙は、ハリス氏とトランプ氏の政策の差は非常に大きいと報じた。ニューヨーク・タイムズ紙は、移民政策とあわせトランプ氏の案はインフレ高騰を招き、経済成長を減速させると超党派のピーターソン国際経済研究所が分析したと伝えた。
予測市場プラットフォームのPolymarketが示唆するハリス氏勝利の確率は9月29日時点で50%。トランプ氏は49%で拮抗。リアル・クリア・ポリティクスによると、全米ベースの支持率はハリス氏が2ポイント優勢、激戦州ではトランプ氏が0.1ポイント上回った。経済政策をめぐってはトランプ氏が優勢ながら、ハリス氏との差は縮小。経済の堅調さと生活に欠かせない食品価格の落ち着きが現職のハリス氏に追い風になっている可能性がある。
11月5日の大統領選まであと5週間。下院全議席と上院の3分の1の議席も改選される。大統領選と同様に議会選挙も拮抗する可能性を世論調査が示唆。最後の最後まで予断を許さない可能性があり、選挙結果が相場を動かすとみられる。ゴールドマン・サックスは、9月27日付のメモで、2016年と2020年の選挙を参考に、選挙後に投資セクターの相関関係が変動すると予想されると伝えた。株式市場でトランプ銘柄とハリス銘柄が注目を集めている。選挙の翌日11月6日と7日に米連邦公開市場委員会(FOMC)が開かれる。選挙後に金融市場全体のボラティリティーが高まりそうだ。
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福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て、現在は米国ロサンゼルスを拠点に海外情報を発信する。