米大統領選が迫ったいま、政治広告の出稿が目に余る。テレビのローカル枠は議会選に絡む広告も多く、番組本編が短縮されたと思うほどだ。YouTubeを視聴すると、冒頭と途中に選挙広告がポップアップして見づらい。献金を求める電話も毎日かかってくる。
面積は日本の25倍の米国。規模と仕組みが違うので単純比較はできないが、米国の選挙は他の主要国をはるかに超える資金が動く。米国の政治資金を分析している非営利団体「オープンシークレッツ」によると、米大統領選と同時実施の連邦議会選で使用される選挙資金は159億ドル(約2兆4200億円)。前回2020年の選挙の151億ドルを上回り過去最高、2000年代初期の3倍に膨張した。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、米国人の多くは気づいていないが、米国の有権者1人あたり選挙資金はカナダの27倍、英国もしくはドイツの40倍と巨額だと報じた。カナダの選挙運動期間は36~50日、英国は6週間で、米国より大幅に短いとしている。米国の選挙は高額で、長期にわたり、消耗戦だと解説した。米有権者を対象にしたピュー・リサーチ・センターの調査で、72%が政治資金の上限を設けるべきと答えたが、状況が変わる兆しはない。
米連邦最高裁判所は2010年、「言論の自由」を理由に企業や団体による政治献金の制限を違憲とした。最高裁の判断をきっかけに米国の選挙費用は高騰。「スーパーPAC(特別政治活動委員会)」と政治団体の集金活動が活発化した。ビリオネアを含む裕福な投資家が幅広く献金。民主党大統領候補ハリス氏と共和党候補トランプ氏は豊富な資金で、テレビCMやソーシャルメディア広告をこれでもかというくらい出稿。選挙集会はスーパースターのコンサートのように豪華だ。選挙は米国の巨大産業になった。
大統領選を直前に控えた世論調査で支持率は拮抗。ニューヨーク・タイムズ紙とシエナ大学の共同調査はいずれの候補の支持率も48%、CNNの調査は47%で並んだ。エマーソン大学の調査は48%で同率だった。ややばらつきがあるものの、激戦7州の支持率も拮抗。どちらが勝利してもおかしくない情勢で、選挙結果が判明するまで金融市場の方向性はでないとの指摘は多い。米株市場は企業決算や経済統計が目先の材料。確実なのは、放送局、広告代理店、ソーシャルメディアなど一部に過去最大の選挙特需があったことだ。
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福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て、現在は米国ロサンゼルスを拠点に海外情報を発信する。