朝起きて最初に新聞各紙をチェックするのが習慣だった。デジタル版に移行して読むメディアは増えた。米大統領選後はSNS(交流サイト)を最初に確認するように変わった。「Truth Social(トゥルース・ソーシャル)」とX。トランプ・メディア・アンド・テクノロジー・グループの展開するSNSとトランプ氏勝利の立役者マスク氏のXを次期大統領が積極活用。一次情報源として欠かせなくなった。「トゥルース・ソーシャル」の投稿をウォール街も重視。ブルームバーグ通信は、ウォール街のエコノミストがトランプ次期大統領の投稿に備えていると報じた。トランプ氏は気まぐれで、経済予測が難しいとしている。
トランプ氏は22日、次期財務長官候補にスコット・ベッセント氏を指名すると「トゥルース・ソーシャル」に投稿した。十分な時間を割いて準備された形跡のある声明文。発表前の早朝、ウォール・ストリート・ジャーナルは、「財務長官にウォーシュ元連邦準備理事会(FRB)理事の起用を検討」と報じた。報道に反応して米株先物やドルなどが動いたが、報じられたウォーシュ氏ではなくベッセント氏の起用を発表。報道に踊らされたウォール街関係者は少なくなかったと想像する。誰もトランプ氏を予想できない。
財務長官は米国の経済政策を担う最重要ポストの1つだ。財政・国債の管理、市場危機への対応などのほか、ロシアなどに対する経済制裁も判断する。ベッセント氏はサウスカロライナ州出身でエール大卒。ゲイであることを公言している。ヘッジファンド界の大物ジョージ・ソロス氏の投資を担当した。トランプ氏はベッセント氏がイギリスの通貨ポンドに大量の売り注文を仕掛け、巨額の利益をあげた取引に関わったと紹介した。ウォール・ストリート・ジャーナルによると、ソロス・ファンドの最高投資責任者(CIO)として、2013年に日本円を売る投資でも成功した。ソロス・ファンドを去った2015年に投資会社キー・スクエア・キャピタル・マネジメントを設立。ウォール街で知られた投資家の1人だ。
ブルームバーグ通信は、ベッセント氏は予測可能性と安定性を求める投資家や金融機関から注目されることになると解説した。通貨政策の再調整を支持しているが、あからさまなドル安戦略にまでは至っていないとしている。ドル安は経済の一部に恩恵となるものの、トランプ氏の提案の中にドルの価値を押し上げるものもあると認めていると伝えた。ベッセント氏はCNBCのインタビューで、インフレを招く関税は緩やかに引き上げ、デフレ効果のある規制緩和などで相殺するよう勧めると述べた。基軸通貨としての強いドルを支持する姿勢も示した。
第1次トランプ政権の4年間、トランプ氏の突発的なツイッター(現X)投稿でドル相場が大きく振れることが何度もあった。USAトゥデーは、伝統的なメディアを回避するトランプ氏は2期目もSNSを多用する見通しと報じた。トランプ氏の投稿が通貨を含めた幅広い金融市場の主要な材料の1つになる可能性は高い。米国時間24日時点で「トゥルース・ソーシャル」のアカウントのフォロワーは823万人、Xは9510万人がフォロー。投資家のフォロワーは今後増えそうだ。
(このコラムは原則、毎週1回配信します)
福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て、現在は米国ロサンゼルスを拠点に海外情報を発信する。