3月30日に放送された米NBCテレビの”Meet the Press”では、アンカーのクリステン・ウェルカー氏がドナルド・トランプ大統領に電話インタビューを行った。このインタビューにおいて注目された質疑の一つは、同大統領の3選に関するものだろう。
トランプ大統領はウェルカー氏の質問に対し、「とても多くの人が私にそれをさせたいと望んでいる。しかし、私はかれらに対し、基本的にまだ長い道のりが残っている、政権発足からまだ日が浅い、と伝えている。私は今の仕事に集中している」と回答している。
これ以降、米国の主要メディアはトランプ大統領の3選の可能性について報じるようになった。仮に2028年の大統領選挙に出馬、勝利して任期を全うすれば、退任時には86歳になる。それでも同大統領自身は強い意欲を持っていると言えよう。
ただしそのハードルは決して低くない。
最大の障害は、1947年3月21日、連邦議会が可決し、1951年2月27日までに当時の48州中4分の3の承認によって成立した合衆国憲法修正第22条だ。「何人も大統領職に2回を超えて選出されることはできない」と規定された。
■アメリカ合衆国憲法修正第22条
出所:ブルームバーグのデータよりピクテ・ジャパンが作成
トランプ大統領が3期目を目指すとすれば、この憲法修正第22条を改正するか、それとも抜け道を探さなければならない。
憲法の改正は、①連邦議会の上下両院の3分の2以上の賛成、もしくは②3分の2以上の州議会の要請により、連邦議会が招集する憲法会議--以上2つのいずれかの方法によって発議される。その上で、③全州の4分の3の州議会による承認か、④全州の4分の3の州の憲法会議の承認が必要だ。
ただし、②はこれまで一度も例がなく、④は1933年の修正第21条のケースのみだった。従って残りの26回の改正は、連邦議会の上下院が発議し、全州の4分の3の州議会による承認で行われたのである。連邦議会が発議したにもかかわらず、4分の3の州の承認が得られなかった案も6例あった。
2026年11月に行われる中間選挙の結果にもよるが、現在、連邦上下院ともに共和党が過半数を制しているとはいえ、ほぼ拮抗した状況だ。州議会でも民主党が強い「ブルーステート」においてトランプ時代を延長するための改憲案が可決されるとは思えない。トランプ大統領の3期目に道を開く憲法改正が実現する確率は限りなくゼロに近いだろう。
抜け道と言われるのは、2028年の大統領選挙でJ.D.バンス副大統領が大統領候補になる一方、トランプ大統領自身は副大統領候補として立候補する手法だ。バンス副大統領が当選、就任と同時に自ら退任すれば、大統領継承順位第1位は副大統領なので、トランプ大統領が実質的に3期目の就任になるとのシナリオである。
しかしながら憲法修正第12条は、「ただし憲法上、大統領の職に就く資格のない者は、合衆国副大統領の職に就く資格はない」との一文で締め括られている。これは2期務めた大統領が副大統領候補になり、大統領に昇格する抜け道をふさぐための規定だ。
つまり戒厳令を発令するなど極めて特殊な手法以外、トランプ大統領の3選は考え難い。
それでもトランプ大統領が3期目にこだわる理由の一つは、2期目で終わりであることが明確化した場合、同大統領の指導力が低下し、早期にレームダック化する可能性が強いからではないか。その場合、2026年11月の中間選挙へ向け共和党の結束を維持することが難しくなる。
ただし関税でインフレが加速し、景気が失速した場合、3期目どころの状況ではなくなる可能性が強いだろう。
ピクテ・ジャパン シニア・フェロー(中京大学客員教授) 市川 眞一
クレディ・スイス証券でチーフ・ストラテジストとして活躍するかたわら、小泉内閣で構造改革特区初代評価委員、原子力国際戦略検討小委員会委員、民主党政権で事業仕分け評価者、内閣府規制・制度改革委員などを歴任。政治、政策、外交からみたマーケット分析に定評がある。2019年9月、ピクテ・ジャパン(旧ピクテ投信投資顧問)に移籍するとともに、情報提供会社のストラテジック・アソシエイツ・ジャパンを立ち上げ。中京大学客員教授も務める。