米中貿易摩擦の懸念がくすぶるにもかかわらず、外国為替市場では円買い・ドル売りの勢いが鈍い。貿易戦争を巡る報道を材料に相場は一喜一憂しているように見えるが、外為関係者の間では「米中ともに本気で貿易戦争に突入する気はないようだ」との冷静な受け止めが広がっている。
5日の東京市場で円相場は一時1ドル=107円15銭近辺と3月13日以来約3週ぶりの安値を付けた。中国が米国に対する報復関税の方針を示した前日4日の夕刻、円は105円台まで上昇したものの、ニューヨーク市場ではあっさりと流れが変わった。米国家経済会議(NEC)のクドロー委員長やロス米商務長官など米中貿易のキーパーソンといえる要人が「貿易戦争は起こらない」と火消しに回ったのをきっかけに、紛争回避に向けた米中の姿勢が確認できたとの解釈から円売り・ドル買いが広がった。
大和証券の今泉光雄チーフ為替ストラテジストは「米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表が3月時点で交渉の余地があると示唆済みで、米国ははなから貿易戦争に突入するつもりはなかった」と指摘する。中国側のスタンスについても「貿易戦争となれば互いの経済にダメージが及ぶとの認識をもって、冷静に対応していくはず」(みずほ証券投資情報部の宮川憲央シニアエコノミスト)との予想が多い。4日に発表した対米の報復関税も導入時期ははっきりせず、今のところ本気度は定かではない。
市場参加者にとって目下、貿易摩擦を巡る各国の動きが最大のテーマとなっている状況には変わりはない。長い目で見た円の先高観は強いままだ。だが、前週まで円高・ドル安の基調をけん引してきた商品投資顧問(CTA)などのコンピューター投資家は米要人発言にすっかり翻弄され、体力が低下している。
4日夕のドル売りも「貿易摩擦を巡るニュースに反応するようセッティングされたコンピューターが主導した」(大和の今泉氏)。その後の円安・ドル高で損失をこうむった公算が大きい。一部のCTAでは要人発言にすぐには反応しないようセッティングを調整したところもあるようだ。
トランプ米大統領が鉄鋼とアルミニウムの輸入制限を発動する方針を示したのをきっかけに貿易摩擦が警戒され始めてから約1カ月たつ。材料としての鮮度はやや低下した。トランプ氏が対中関税の発動を判断するのは6月ごろということもあり、市場では貿易摩擦を巡る報道に耐性をつけ始めたのかもしれない。
【日経QUICKニュース(NQN) 蔭山道子】
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