外国為替市場でトルコリラの下落が止まらない。リラは高金利通貨の代表格として国内の外為証拠金(FX)投資家「ミセスワタナベ」の人気を集めてきたが、リラ安継続による含み損の拡大に耐えきれず、証拠金不足で強制的に持ち高解消(強制ロスカット)を迫られるケースが出てきている。ミセスワタナベの買いがリラ相場を支えるとのシナリオは当面、描きにくくなった。
トルコリラの対ドル相場は9日現在、対ドルで1ドル=4.04リラ近辺、対円で1リラ=26円50銭程度と、過去最安値圏で推移している。足元でリラ売りに拍車をかけているのがトルコの膨大な経常赤字だ。2017年の赤字額は対国内総生産(GDP)比で5.5%と、4年ぶりの水準まで膨らんだ。
国内で収支を均衡できないなら、海外マネーで赤字を穴埋めするしかない。だが18年初以降、米株価の急落などで投資家のリスク選好姿勢は後退してきた。「トルコへの資金流入が滞り、経常赤字を埋めきれなくなっている」(SMBC日興証券の平山広太新興国担当シニアエコノミスト)との懸念はいやがうえにも強まる。
追い打ちをかけるように、19年11月に大統領選挙と議会選挙を控えるエルドアン政権は積極財政に傾いている。金融機関の中小企業向け融資や貿易関連融資を保証する政策を進め、インフレを防ごうとするトルコ中央銀行の金融引き締めの姿勢とは、方向性が真逆だ。経常収支の黒字化にはほど遠いばかりか、「政権はさらにトルコ中銀に利下げを要求しているもようだ」(第一生命経済研究所の西浜徹・主席エコノミスト)との声もある。このため欧米ヘッジファンドなどの投機筋はリラ売りの手を緩めていない。
ミセスワタナベの利息収入の基準となるリラの翌日物金利は、年率10%程度だが、一日あたりで得られる金利収益は微々たるもの。ファンド勢がかさにかかってリラを売り込んできたら、個人投資家の損失は避けられない。
FX大手の外為どっとコムによれば、3月22~23日にかけてリラが急落した場面で、損失覚悟のリラ売りが加速した。リラの買い持ち高はわずか一日で3億3000万リラ近く(15%程度)減った。単純に計算すれば、日本円で87億円近い損失が確定したことになる。外為どっとコム総合研究所の神田卓也調査部長は「さすがに新規の買い注文の勢いは鈍っている」と指摘する。
今後、リラはどこまで下落するのか。SMBC日興の平山氏は「ここから先は未知の領域。リラがどこまで下げても驚かない」と話す。そのうえで「エルドアン政権が選挙を前倒しし票集めのための経済政策をやめるか、トルコ中銀が追加の引き締め策を打てばリラ安がやや落ち着くかもしれない」とみているが、時間がかかりそうだ。リラ相場の本格回復はしばらく想定しづらいだろう。
【日経QUICKニュース(NQN ) 荒木望】
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