5月に入って新興国の株式や債券で運用する上場投資信託(ETF)からの資金流出が加速している。米金利の上昇やドル高が新興国経済に悪影響を及ぼすとの見方が広がっている。
QUICKファクトセットによると、新興国株で運用する「iShares MSCIエマージング・マーケットETF」から2日、5億5300万ドル(約608億円)の資金が純流出した。1日の純流出額としては2016年11月15日以来、1年半ぶりの規模だ。3日にも3億1600万ドル(約347億円)流出し、新興国株を手放す動きが広がっている。
【iShares MSCIエマージング・マーケットETFの資金流出入(青)】
新興国の債券のパフォーマンスも悪化している。「iShares JPモルガン・ドル建て・エマージング・マーケット債券ETF」の純資産残高は4日時点で112億ドルと、昨年末比で8%減った。
米金利の上昇やドル高の影が新興国に長く伸びている。アルゼンチン中央銀行は4日、政策金利を引き上げて年率40%にすると発表。景気減速につながる大幅利上げに踏み切ったのは、アルゼンチンペソの下落に歯止めがかからないからだ。ペソは年初来で15%下落している。
トルコも利上げで通貨防衛を急ぐが追いついていない。財政赤字の拡大に加えてエルドアン大統領による強権的な政権運営が嫌気され、トルコリラは対ドルでは過去最安値を更新。過去1年の下落率は17%に達する。インフレにも歯止めがかからず、「リラの下値余地はみえない」(国内証券のアナリスト)状況だ。
「新興国売り」の先行きを占う上では、原油相場の動向も重要だ。米先物相場は、指標銘柄が日本時間7日の時間外取引で約3年5カ月ぶりに1バレル70ドルに乗せた。
原油高は原材料費の上昇を通じて、米国の利上げ加速の思惑を呼びやすい。トルコやインドなど原油の純輸入国の経常収支の悪化にもつながる。
シティグループ証券の高島修チーフFXストラテジストは「原油先物が1バレル70~80ドルで推移するようになれば原油の純輸入国の歳出が膨らみ、新興国経済が下振れするリスクが意識される」と話す。
4日の米株市場では、4月の米雇用統計で賃金上昇圧力の弱さが確認されたほか、「サンフランシスコ連銀のウィリアムズ総裁が改めて2%のインフレ目標を超える物価上昇に柔軟な姿勢を示した」などと一部で伝わり、利上げ加速への懸念が後退。ダウ工業株30種平均の重要な節目とみられている200日移動平均割れが回避された。
だが、これをきっかけに米国の低金利と景気拡大が世界を潤す「適温経済が復活する」とみるのは早計だ。米インターコンチネンタル取引所(ICE)が算出し、ドルの総合的な価値を示す「ドルインデックス」は4日に92.5と、1月9日に付けた年初来高値を更新。2月15日の年初来安値からの上昇率は4%に達した。新興国の動揺に身構える投資家は増えている。
【日経QUICKニュース(NQN) 田中俊行】
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