ロシアによる米国債の保有額が4月に急減した。米国との外交関係の悪化に伴う通貨ルーブルの急落により、ロシア政府が為替介入で自国通貨の防衛を迫られたためと市場参加者の多くはみている。トランプ米大統領の強圧外交が金融市場の不安定化を招き、米国の財政基盤や実体経済に跳ね返る自縄自縛の構図が浮き彫りになってきた。
米財務省の統計によればロシアの米国債保有額(長期債と短期債の合計)は4月が487億ドル(約5兆3000億円)と前月に比べ49%減少した。米国がロシアのアルミ大手ルサールへの経済制裁を打ち出すなど、2016年の米大統領選への介入疑惑やシリア問題を巡り米ロ関係が急速に悪化した時期と重なる。
米国の経済制裁への反発から米債売りに傾いたようにもみえるが、ロシア政府がルーブル買い・ドル売りの原資確保を目的に、主に米債で運用する外貨準備の一部を取り崩したのが現実のようだ。ルーブルは3月末に1ドル=57ルーブル近辺だったが、4月には一時65ルーブル前後に1割以上も下げた。
※チャートは終値
3月末に2.7%台だった米10年物国債の利回り(長期金利)は4月下旬に3%の大台を突破(価格は下落)した。こうしたマネーの動きはトランプ氏の米国第一主義が巡り巡って米経済にダメージを与える経路を浮かび上がらせる。
財政拡大と保護主義を柱とするトランプ政策はもともと金利上昇を招きやすい。米金利の上昇は資金逃避懸念を抱える中国を中心に新興国通貨への売り圧力となる。それが新興国のドル売り・自国通貨買い介入に絡む米国債売りを呼び、米金利がさらに上昇する悪循環に陥りかねなくなっている。
米国債への売りがロシア以外の国に波及する兆しは今のところみられない。それでも、みずほ証券の岩城裕子チーフ外債ストラテジストは「新興国のドルの調達環境が緩和するとは考えにくく、注意が必要」と話していた。
【日経QUICKニュース(NQN) 編集委員 永井洋一】
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