外国為替市場でトルコリラの売りが続いている。6日に対円相場は1リラ=21円台後半、ドルに対しては1ドル=5リラを下回るなど過去最安値圏で推移している。8月に入ってトルコと米国との政治的なあつれきが急速に高まっており、投機的なリラ売りが止まる兆しはない。対円では20円で下げ止まるかどうかが分水嶺となりそうだ。
トルコ在住の米国人牧師アンドルー・ブランソン氏の解放問題を巡り、米財務省は1日、トルコの法相と内相の資産を凍結すると発表した。エルドアン大統領はすぐさま対抗に打って出て4日、「米国の法相と内相の資産を凍結する」と発言した。2人の米閣僚がトルコに資産を持っているとは考えにくく実効性は低いとの見方が大勢だが、「やられたらやり返す姿勢を明確に示した」(第一生命経済研究所の西浜徹・主席エコノミスト)との受け止めが多い。
トルコ政府は、2016年に政権転覆を狙ったクーデター未遂事件を主導したとして、米在住のイスラム教指導者ギュレン師の引き渡しを求めている。だが、ギュレン師は米国でも保守派の多い地域に住んでいるとされ、米中間選挙を控え支持を集めたいトランプ政権が引き渡しに応じる可能性は極めて低い。両国とも妥協点を見つけるのは難しく、現時点で事態好転に向けた解決の糸口が見えない。
外為オンラインの佐藤正和シニアアナリストは「1リラ=20円で踏みとどまれるかが今後のリラ相場を左右する」と指摘。20円を下回れば、個人投資家の投げ売りをきっかけにリラがさらに下落すると予想する。
トルコでは8月から電気料金が引き上げられたと伝わっており、インフレ率がさらに上昇する可能性がある。「原油高も背景に貿易赤字や経常赤字が膨らむ見通しで、ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)を見てもリラに明るい先行きが描けない」(大和証券の石月幸雄シニア為替ストラテジスト)状況だ。
トルコ中央銀行は7月の金融政策決定会合で利上げを見送った。緊急会合などで利上げを決めることがトルコリラ安に歯止めをかける唯一の手段との見方が広がる中、「中銀の総裁人事を大統領が握っており、大幅な利上げにも動きにくい。投機的なリラ売りを止める手段がない」(大和証の石月氏)との声は少なくない。
【日経QUICKニュース(NQN) 菊池亜矢】
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