インドの株式相場が絶好調だ。来年春に総選挙を控えるモディ政権が景気浮揚のため財政出動に力を注ぐとの見方が投資家の買い意欲を刺激している。ただ財政の拡張は長らく高水準の政府債務に苦しんできたインドの弱みを助長する。政権のさじ加減が今後の相場の方向を決定づけそうだ。
ムンバイ証券取引所の主要30銘柄で構成するSENSEXとナショナル証取の主要50銘柄からなるニフティ50指数は6日時点で、6月末に比べいずれも6%超上昇した。理由はインドの経済や企業業績の高成長期待だ。同じ期間の中国・上海総合指数は米中貿易摩擦のあおりで5%安。日経アジア300指数も約1%下げるなか、輸出依存度が低い内需国のインドの株式には、国内要因を素直に評価した買いが入った。
成長期待の高まりは、インドが「政治の季節」を迎えているからだ。首相続投を狙うモディ氏が手を尽くして景気を支えるとの観測が強い。実際、インド政府は7月に農家への補助金にあたる農産物買い取り価格の引き上げや、一部消費財の税率引き下げなど農村部の支援策を打ち出した。低価格住宅や道路などのインフラ整備も進めている。
7月の税率下げの発表を好感し、たばこなど消費財大手のITC株は急伸。6月末に比べ13%高い水準にある。国営銀行への資本注入実施を受けて銀行株も堅調。決算発表で不良債権問題のあく抜け感が広がったこともあり、国営インドステイト銀行やICICI銀行も6月末比で10%超上昇した。
専門家の間では「インド株の天井はまだ先」との見方が多い。インドのHDFC証券は「インド株の上昇基調は続き、高値警戒感からの売りが出ても即座に押し目買いが入る」と強気な予想を示す。野村インターナショナルは2019年3月末時点のニフティ50指数を、6日終値より4%あまり高い「1万1892」と予想する。
財政拡大にはもちろん不安もある。米格付け大手ムーディーズ・インベスターズ・サービスは7月30日、インドの一部消費財の税率下げについて「昨年11月、今年1月に続く動きで、税収を押し下げ信用力にマイナスだ」とのコメントを発表した。現時点での歳入減はわずかとしながらも、財政規律を軽視する政府の姿勢に警鐘を鳴らした。
中央銀行も警戒を強める。インド準備銀行(中銀)が1日に追加利上げに踏み切ったのは物価上昇を抑える狙い。農産物の買い取り価格引き上げなど一部の政策は直接的なインフレ要因になりうるとみている。財政赤字や物価上昇率が臨界点を超えれば、今は安定しているインドの金融資本市場から一転して資金が逃げ出しかねない。
現状、ばらまき型の景気対策は経済や株価をけん引するエンジンと目されているが、ふかしすぎればリスクになる。投資家は通貨ルピーや債券相場の動向も見極めながら、株価の上昇余地を慎重に探る必要がありそうだ。
【日経QUICKニュース(NQN)シンガポール=村田菜々子】
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