金融とテクノロジーの融合であるフィンテックは、発展途上ながら、社会課題を解決する大きな可能性を秘めている。インターネット上で個人から事業資金を集めるクラウドファンディングもその一つで、この市場の大半を占めるのが、ソーシャルレンディングと呼ばれる貸付型(融資型)ファンド。なかでも海外向けに特化しているのがクラウドクレジット(東京・中央)だ。
クラウドクレジットは主に新興国向けの貸付型ファンドを運用・販売している。ファンドの販売手数料は無く、出資金に対して最大4%の運用手数料を運用開始時あるいは毎年度に分けて支払う。為替手数料などの費用を投資家が負担する場合もある。
足元のソーシャルレンディング業界は悪質な業者によるトラブルが相次いでおり、金融庁は従来匿名を原則としてきた融資先情報について公表を求める方針に転換。業界を取り巻く環境も変わりそうだ。クラウドクレジットの杉山智行社長に、同社の現状と匿名化解除への対応について聞いた。
――海外向けに特化している理由は
「投資機会が多いからです。当社は、日本と比べて銀行の貸出余力が低く、資金需要が大きい国に対して、日本の余剰資金を融資しています。世界規模で資金余剰と資金不足をつなぐことで、年利回り6.77%(18年11月時点での顧客全員の平均値)を実現しています」
「国内は資金余剰のため、融資でリスクに見合った水準の金利を得ることが難しくなっていると考えています。国内を対象とした融資型ファンドで高い利回りを実現しているのは、質の高い事業者のみで、他は単純に実体がなかったことが、ここ数年で露呈しました」
「新興国には、成長企業にリスクに見合った水準の金利で貸し出せる機会が豊富にあります。当社の投資先はノンバンクやマイクロファイナンス機関が多いです。現在は、地域で見れば東欧、業種でいえばノンバンクに偏っていますが、今後はアジアのレイターステージ(=事業が軌道に乗った)のベンチャー企業向け融資を拡大する方針で、今年中には地域、業種ともに分散がかなり進むとみています」
――どのように投資先を審査しているのか
「まずヒアリングによる初期審査を実施します。その後の本審査では、ビジネスモデルや事業計画、財務状況の確認に加え、投資先国の法務、財務面で調査も実施します。当社はレファレンス(第三者の評価確認)も重視しており、投資先国ではできるだけレファレンスをとれる主体を増やしています。実際、半年に1社くらいの頻度で、レファレンスの結果を受けて審査を中止することがあります。当社の審査通過率は初期審査からだと10件に1件程度、本審査以降で4件に1件程度です。継続的に投資先のモニタリングも実施しています」
――顧客の利用状況は
「2019年3月時点でID登録者数が3万4000人を超え、うち1万5000人を超える方が投資を実行されています。投資実行者のうち2割程度が、株式、投資信託での資産運用を経験したことがないという方で、多くが(経済的リターンだけでなく新興国の貧困といった社会課題の解決も目指す)社会インパクト投資の文脈で購入していただいていると見ています。昨年1月以降、我々は社会インパクト投資ファンドにも注力しています」
――融資先の「匿名」原則の解除どうみる
「当局が匿名化の方針を転換することは、当然必要な措置だと考えており歓迎しています。まっとうなソーシャルレンディング事業者はどの会社も、匿名化に反対してきました。匿名化は、当初から民間事業者が懸念していた通り、悪質な事業者が詐欺的なファンドを日本の個人投資家に大量に供給する温床となってしまったため、非常に残念に思います」
「当社は匿名化解除が実行された時点で、ほぼ全案件の融資先企業の社名を開示します」
――サブプライムローン商品と似ているとの意見もある
「リスク・リターンの観点からは、近い分類だと思っています。十数年前のサブプライム危機の本質は、リスク商品を大量に抱え込んではいけないはずの銀行が、リスクの高いサブプライム商品を大量に保有してしまったため、リスクが表面化した際に投げ売りが起こり、パニック化してしまったことです」
「当社はファンドを紹介するときに『安全安心』とは言いません。あくまで、リスクをとってもいい資金で融資するファンドであることを強調しています。また、お客様全体の損益状況など様々な情報を公開しております。今後も借り手の財務数値の開示範囲の拡大など、透明性を向上させていきます」
――ファンドの成績や融資回収の状況は
「2018年11月末で見ると、95%のお客様の推定リターンがプラス圏となっています。ファンドの元本割れ償還については円高によるものが多いです。運用中ファンドの遅延率は5%程度で、主にカメルーンの投資先が原因です。カメルーンの投資先は中小企業のデフォルトに加え、国外送金の部分で遅延してしまった事例もあります」
「ソーシャルレンディングの特徴として、伝統的資産との相関係数が低いという点があります。2018年末に米国株が急落したときも、当社ファンドは全体としてそれほど大きな影響をうけませんでした。ポートフォリオのリスク分散という観点でも、魅力的な資産と言えるのではないかと思っています」
――今後の計画は
「お客様の資産をお預かりする金融事業者として、目先でいえば単月黒字化を達成することを重要視しています。今年2月には、法人投資家向けのプライベートファンドも開始しました。法人向けの運用は今年を通じて拡大していきたいと思っています」
【聞き手はイノベーション本部 吉田晃宗】