QUICK編集チーム
株主の利益を最重要視する企業経営こそ経済成長の原動力——。こうした理念に突き動かされ支えられてきた米国型の資本主義に、米国の名だたる大企業のトップらが自ら決別を宣言した。経営者団体のビジネス・ラウンドテーブルが、従来の「株主第一主義」の見直しを発表。従業員や取引先、地域社会など幅広いステークホルダーに目配りしつつ、長期的な企業価値向上を目指すという内容だ。この動きは、米国にならって株主重視の流れを進んできた日本の企業経営や資本市場にどのような影響を及ぼすのだろうか、QUICK短観で上場企業の考えを聞いてみた。
※9月のQUICK短観、上場企業259社が回答。四捨五入の関係で合計は100にならない
米国型資本主義は良くも悪くも経済合理性や効率を最優先する。富めるものと貧しいものの格差拡大を生み出し、暴走した挙句にエンロン事件やリーマン・ショックなどを引き起こした。一方で、非効率で収益力が低い企業を厳しく監視したり選別したりすることで経営の規律や市場のダイナミズムを生む、というプラスの側面も見逃せない。
「配当政策やM&Aなどで株主からの圧力が少なくなり歓迎」と「危機に備えて現金を積み上げるなどの『日本的経営』が評価される」の2つは、株主ファースト修正をポジティブに受け止めている回答だ。コメントでは「役員を含む従業員の賃金、待遇改善につながる」「地に足の着いた経営がしやすくなる」などの声が聞かれる。
逆に「市場のチェック機能が緩んで非効率企業が温存・増加」と「市場から見た企業の魅力が薄れ、投資マネーが日本から流出していく」というマイナス面を心配する回答もおおむね合計1割だった。日本では株主志向の経営がようやく根付き始めた段階で「株主を軽視してもよいということにはならない」とクギを刺すコメントも目を引いた。
「日本企業は株主第一主義でないので特段の変化はない」と答えた企業は3割。「もともと様々なステークホルダーを意識した経営を志向する企業が多く、米国のような揺り戻しの影響はあまりない」と実情を冷静に分析しているものとみられる。
さらに、「そもそも米国の株主第一主義の見直しが実現しない」とみている企業も1割ある。実際、ラウンドテーブルの宣言には具体的な実行策などは盛り込まれておらず、見直しの効果を測るモノサシもはっきりしない。トップの極端な儲けすぎ批判をかわすための「目くらまし」にすぎないといった冷めた見方は当初から一部で出ていた。
「(環境や社会貢献を重視する)ESGや(持続可能な開発目標)SDGsへの要求が強まる」という回答が最も多いのは順当な結果といえる。社会との調和を意識しない企業経営は早晩、支持されなくなる。ESGやSDGs VS 株主という単純な構図では論じにくいが、企業経営の生殺与奪を握る新たな「圧力」とどう向きあっていくかを考えるきっかけにはなりそうだ。