日経QUICKニュース(NQN)= 藤田心
南アフリカ共和国の通貨ランドが軟調だ。対ドル相場は年初から下落基調で、同じ高金利通貨とされるトルコリラやメキシコペソと比べて見劣りする。南ア準備銀行(中央銀行)が16日に市場予想に反して政策金利を4会合ぶりに引き下げたのが重荷になっており、市場では「南ア国債の格下げリスクに先手を打ったのではないか」との見方も出ている。
高い失業率や巨額の財政赤字で苦境
足元の南アランドの対ドル相場は1ドル=14.5ランド台前半と、2019年12月中旬以来およそ1カ月ぶりの安値圏にある。昨年末からの下落率は3%強で、トルコリラ(昨年末比約0.5%上昇)やメキシコペソ(同1.2%上昇)とは対照的だ。
背景にあるのが南ア経済の脆弱さだ。慢性的な電力供給不足に悩み、失業率は30%近い。さらに国営電力会社エスコムの財政支援などで南アは巨額の財政赤字にあえぐ。南ア準備銀は16日に20年の成長率とインフレ率予想を下方修正し、景気浮揚のために政策金利を0.25%引き下げ6.25%にすると決めた。
南アの政策金利を巡っては引き下げバイアスが強いが、今回は据え置きが予想されていた。3月には主要格付け会社で唯一、南ア国債を「投資適格級」としている米ムーディーズ・インベスターズ・サービスによる格付け見直しが予定されている。市場関係者の間では2月に公表される20年度予算案が大きな判断材料になるとの見方が多く、予算案の内容を見極めてから南ア準備銀も政策を決めるとの観測が強かった。
八方ふさがり、予算案で戦々恐々
そのため、今回の利下げには「もう1つ理由がある」と市場は読む。SMBC日興証券の平山広太氏は「予算案公表後に金融緩和ができなくなるリスクに備え、先んじて利下げに踏み込んだのではないか」と指摘する。
予算案では財政赤字の改善策が発表される見通しだが、「ラマポーザ政権の国営企業改革は難航しており、画期的な策が打ち出されるとの期待が持ちにくい」(ソニーフィナンシャルホールディングスの石川久美子氏)。予算案の内容が市場の失望を招けば「ジャンク(投資不適格)級」への格下げが意識され、「資金流出懸念から金融緩和どころではない状況になりかねない」(平山氏)というわけだ。
八方ふさがりともいえる南ア経済。市場では「リスク選好局面でも他の新興国通貨に比べ上値は重そう」(野村証券の中島将行氏)、「リスクオフ(回避)時には最も売られる通貨の1つになる可能性がある」(ソニーフィナンシャルの石川氏)との声も漏れる。予想外の利下げに中銀の苦悩が透けてみえる。
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