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FXツールの技術「タダ乗り」に厳しい姿勢 (IPリポート VOL.18)

ビジネス関連発明の特許侵害訴訟で画期的判決

 

弁理士・新山雄一(正林国際特許商標事務所)
 証券アナリスト・三浦毅司(日本知財総合研究所)

 
2019年10月、知財の世界で画期的な判決が確定した。FXや株価指数CFD取引を個人向けに提供するマネースクエアの親会社マネースクエアHD(東京・港)の特許権侵害訴訟で、被告である外為オンライン(東京・千代田)が上告を断念し、マネースクエアHDの全面勝訴となったのだ。

ビジネス関連発明特許に係る特許侵害訴訟では、わずかなサービスの違いでも別の発明とみなされやすい傾向があり、原告が勝つのは極めて稀だった。今回のマネースクエア勝訴の背景には、裁判所の判断が原告に好意的なものに変化してきていることがある、と我々は考えている。独自技術に「ただ乗り」する競合相手には厳しい判断が下されるという流れが出来上がっていく可能性がある。

■「トラリピ」の原告マネースクエアが全面勝訴

マネースクエアの裁判は、同社のFX自動リピート取引機能「トラリピ」の特許権を、外為オンラインのサービス「サイクル注文」「iサイクル注文」が侵害しているとして、そのサービスの提供停止を求めた。2015年2月に最初の提訴を行い、その後、関連の裁判を2件起こした。

ビジネス関連発明にかかる特許侵害訴訟で、原告が勝訴したのはマネースクエアが外為オンラインに対して起こした計3件の訴訟のうち今回を含む2件しかない。

ビジネス関連発明に係る主な特許侵害訴訟と結果

出所:正林国際特許商標事務所

■侵害が認められにくい「コト特許」の構造問題

新技術の発明が「モノの特許」なのに対し、ビジネス関連の発明はさしずめ「コト特許」にあたる。サービスに対する知財権利化意識の高まりで出願件数は増加基調にあり、特許として認められる比率を示す査定率も約70%と通常の特許とそん色ない水準に高まった。

しかし、査定率の向上の裏には、上位概念での特許登録は認めずに、処理工程を限定させることで、発明を矮小化させたうえで登録を認めるというトレンドが存在している。その結果、サービスの特許であるビジネス関連発明に係る特許侵害訴訟では、わずかな違いでも別の発明と認められ、侵害に該当しないと判断される。特許による知財の保全効果が「モノの特許」に比較して弱いという評価があった。

マネースクエアと外為オンラインの第3回訴訟における争点と裁判所の判断

出所:正林国際特許商標事務所

今回の訴訟で裁判所は、表にあるようにマネースクエアの「トラリピ」の特許に関して、取引実行の価格を変更するタイミングや内容の面で進歩性を持ったものであり、外為オンラインのサービスはその侵害に該当するものであることを認めたわけだ。

■「トラリピ」の技術を守る戦略的な特許出願

改めてマネースクエアが提供する「トラリピ」の仕組みを説明する。顧客はあらかじめ、①対象通貨ペア、②取引の順番(買ってから売るか、売ってから買うか)、③為替の変動範囲、④発注個数、⑤いくら以上の利益が出たら取引するか、⑥相場が思惑と反対方向に動いた場合のストップロス(任意)、の6つを登録しておく。

こうしておけば、市場の細かな変動のたびに自動的に取引をして利益を確保することができる。また、市場の大きな変動の際には損失のヘッジを行うことができる。マネースクエアの顧客の約75%が「トラリピ」を利用しており、顧客への強い訴求力となっている。

同業他社と比較して、マネースクエアの顧客の取引頻度は極めて低い。取引頻度を表す指標である過去2年間の月間回転数を見ると、大手は概ね50回以上、業界平均でも40回程度と、顧客が何回も取引を繰り返していることが分かる。これに対してマネースクエアは1.2回程度にとどまる。

FX業界の月間回転数(月中取扱高÷同月末ポジション残高)

出所:金融先物取引業協会のデータから作成

あらかじめ指値を登録して自動的に取引を行う「トラリピ」は、マーケットに常に張り付いていられない個人投資家の利便性を高める支援ツールとして提供された。その技術を守るための特許出願も戦略的で、FX会社としては圧倒的に多い。

マネースクエアの特許出願件数は群を抜く

出所:独立行政法人工業所有権情報・研修館「J-PlatPat」より作成

■損害賠償請求、次の注目点に

外為オンラインは訴訟対象のサービスに代わる新サービスを別の名前で既に開始している。少なくともユーザー視点では、そのサービス内容は訴訟対象の「サイクル注文」「iサイクル注文」とかなり似通ったものだが、この訴訟による差し止め請求対象となるのは「サイクル注文」「iサイクル注文」に特定されるため、別の名前で提供するサービスには効果が及ばない。

今後、こうした判例が蓄積されることで、知財を軽視する事業者などに対する抑止力が向上し、発明にかかる開発費が正当に回収されることで業界の健全な競争と発展につながることが期待される。また、知財保護の実効性を担保するため、最終的には相応額の損害賠償請求が認められるかどうかが次の焦点になるだろう。(2020年2月5日)


日本知財総合研究所:三浦毅司 [email protected] 電話080-1335-9189

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