日経QUICKニュース(NQN)=松下隆介
新型肺炎の感染拡大と中国当局の対応に一喜一憂する金融・資本市場。どこまで実体経済へ影響が及ぶのかなどに投資家の関心は向かっているが、忘れてはいけないリスクはもうひとつある。イランを起点とする中東リスクだ。イランと米国の対立が再び激化すれば、運用リスク回避へ外国為替市場で思わぬ円高圧力となりそうだ。
■政治的に重要な節目、政情不安も高まりやすく
「米国とイランの突発的な軍事衝突に警戒すべきだ」。岡三オンライン証券の武部力也投資情報部長は身構える。米国によるイラン革命防衛隊司令官の殺害と、米軍基地へのミサイル攻撃というイランによる報復で年初に急速に激化した両国の対立は、このところ沈静化している。だが、再び市場を揺さぶる可能性は残る。
イランは2月、政治的に重要な節目を迎える。21日には国会選挙の予定だ。政治リスクの調査会社のユーラシア・グループは、イラン核合意を受けた制裁解除による景気持ち直し期待などから改革派や中道派が多数当選した前回(2016年)と打って変わり、反米色の強い保守強硬派が多く当選するとみている。
例年の選挙と異なるのは、投票日の直前といってもいい11日にイスラム革命記念日も控えること。例年、記念日前後には政情不安が高まりやすい。19年2月には自爆テロが発生し、多数の死傷者を出した。「選挙の前だけに、最高指導者ハメネイ氏らが対米強硬姿勢を改めて表明する可能性がある」との見方もある。
■「軍事衝突なら108円台前半」の見方も
米国では同日、ニューハンプシャー州で民主、共和両党の大統領候補者を決める予備選が行われる。売り言葉に買い言葉で、トランプ氏や民主党の候補者からイランに対し強い発言が相次げば、地政学リスクの高まりでリスク回避の動きが広がりやすい。岡三オンラインの武部氏は「仮に軍事衝突まで発展するようであれば、108円台前半まで円高・ドル安が進む」と指摘する。
伊藤忠総研の主任研究員、古瀬礼子氏は「イラン国内ではロウハニ大統領のもとで、もともと対米強硬派の声が強かった。状況は選挙後も大きく変わらないだろう」と指摘する。ユーラシア・グループも「議会の勢力図の変化は、米国との交渉も含め、イランの外交政策や各政策に劇的、即時に影響を与えることはないだろう」と読む。とはいえ、イランでは国会議員がトランプ氏に懸賞金をかけたり、国会で核拡散防止条約からの撤退が検討されたりしているとも伝わる。
10日の外国為替市場は、中国の金融緩和などをにらんで1ドル=109円台後半で売り買いが交錯しており、市場参加者の関心は新型肺炎に集中している。だが、強硬姿勢を強めるイランのリスクには注意を払ったほうがよさそうだ。
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