「これからの25年間の世界経済や市場はどうなるか」ーー。日経QUICKニュース社(NQN)設立25周年インタビュー企画の今回は、1月に岡三証券グローバル・リサーチ・センターの理事長に就任した著名エコノミスト・アナリストの高田創氏。日欧などでマナス金利政策が続いているが、中央銀行による金融政策は限界に達しており「今後どこかでゲームのやり方が変わる」と指摘する。
井田正利
【3つのポイント】①金融政策はインフレに効くがデフレには効かず。マイナス金利政策に矛盾②金融機関で業態転換も含めた再編が起こる③経常収支の黒字維持で日本国債のデフォルトは回避 |
「囚人のジレンマ」と同じ、一斉に降りる協調解を
――世界的に金利が低下し、日欧ではマイナス金利政策が採用されています。この先の金融政策はどうなるでしょうか。
「金融政策を重視するマネタリズムという考え方が出てきた1980年代はインフレの時代だった。金融政策はインフレを抑えるためには効果があったと思う。だが徐々にインフレが収まり、デフレに近い状況では金融政策はあまり効かなくなっているのかもしれない。どこかで変えなければいけない時期が来るのではないか。2045年までにはさすがに来ると考えている」
「金融政策には非対称性があって、インフレには効くがデフレには効かない。にもかかわらず金融政策が全てを決めるという前提にこだわった結果がマイナス金利だ。金利をマイナスにしても物価が上がらなければさらに深掘りしなければいけないという状況に陥っている。金融政策で物価を押し上げられるという考え方には矛盾や副作用があるのではないか」
「金利はもう少し上げなければいけない、やはり2%の物価上昇目標はおかしかった――となるのではないか。物価上昇率が2%に達しないから薬(利下げ)を出せばいいということではなくて、どこかでゲームのやり方を変えようとなるだろう」
――マイナス金利からの脱却は可能でしょうか。
「日本や欧州がマイナスまで政策金利を引き下げた背景には通貨切り下げ競争がある。低金利をやめてしまうと自国通貨が上昇し、交易条件が不利になる。ゲーム理論でいう囚人のジレンマと同じで、自分だけが出ていくわけにはいかない。みんなで一斉にゲームから降りる協調解でなければだめだ」
「日米欧が同じ状況になれば、協調解が生まれるかもしれない。45年までには、場合によっては米国も金利がマイナス圏まで低下するかもしれないからだ。そうなれば2%の物価上昇目標を取り下げて、そろってこの状況を変えようという方向にレジーム(体制)が転換する可能性はあるだろう」
「もっとも、先進国を中心に広がる低金利環境は世界的な高齢化という構造的な問題によるものかもしれない。高齢化が進めば成長率が下がり、自然利子率も下がりやすいためだ。日米欧が金利引き上げに一斉にかじを切ったとしても、『超々低金利』から『低金利』になる程度だろう」
「財政」が次の経済政策の主流に
――マイナス金利は金融機関の収益を圧迫してきました。
「金融機関、特に銀行にとっては最悪の政策だ。中でも国内に基盤を持つ地域金融機関の収益が毀損されやすい。金融機関にとっては冬の時代になり、生存競争が激化しかねない」
「ある種の構造不況に陥っており、業態変換が必要だ。地域金融機関に対しては、政府の未来投資会議で独占禁止法の適用を除外したうえで再編するとの議論も出ている。従来の銀行という枠組みを超えて、新たな業態への転換を含めた金融の再編が起こる可能性はあるだろう」
――金融政策に限界があるとすれば、経済政策の主流はどうなるでしょう。
「やはり財政政策だ。1929年の世界恐慌以前は金融政策が全てを決めるという時代が続いていた。恐慌を経て、財政政策を重視する流れが戦後まで続いた。現代でも、金融政策だけではうまくいかないという認識が広がりつつあり、そろそろ財政政策もという動きが出てきた。賛否は大きく分かれているが、財政赤字で国は破綻しないと説く現代貨幣理論(MMT)を提唱するような動きは大きな潮流が転換する兆しなのかもしれない」
「日本は経常収支が黒字なので、国内で借金があっても国外にはない。経常収支の黒字が続く限りは借金を全て返す必要はなく、返すそぶりさえ示していれば問題なく国債の債務不履行(デフォルト)は回避できるだろう。約10年前の欧州債務危機は経常収支の赤字が問題だった」
戦争、気候変動、感染症……世界の安定を崩すテールリスク
――少子高齢化が進む中でも経常収支の黒字を維持できますか。
「現在の経常収支を支えているのは所得収支だ。日本が過去に積み上げた投資がもたらす利払いや配当によるもので、投資家のような状況になっている。かつてのモノをつくって輸出するというところから、世界中に投資をするという新たなビジネスモデルへの転換が重要になる」
「高齢化で社会保障費は年々かさんでいくため、高齢者や外国人労働者、女性の活用で労働力人口の減少を埋めていく必要もある。高齢者でいえば60歳の定年を70歳に延長するというのも一つのやり方だ。十分ではなくとも、黒字の維持はできるだろう」
――2045年までを見通した際のテールリスク(確率は低いが起きれば影響が大きいリスク)は何でしょうか。
「この世界の安定が崩れてしまうことだ。戦争かもしれないし、気候変動や感染症かもしれない。我々は世界的な紛争が起こっていない幸運な時代に生まれてきた。最大のリスクはその前提が崩れてしまうことだ」
高田創(たかた・はじめ)氏 岡三証券グローバル・リサーチ・センター理事長。1982年に日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。英オックスフォード大修士。みずほ証券執行役員チーフストラテジスト、みずほ総合研究所副理事長兼エグゼクティブエコノミストなどを歴任。「シナリオ分析 異次元緩和脱出」(2017年、日本経済新聞出版社)など著書多数
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