「これからの25年間の世界経済や市場はどうなるか」を聞く日経QUICKニュース社(NQN)設立25周年記念の特別インタビュー企画。金融論や企業統治を専門とし、政府委員や大企業の社外役員を歴任してきた早稲田大学大学院の川本裕子教授は、人口が減少していく日本の経済的な地位低下は女性の活躍によって和らげることができると指摘。成長の持続には多様性(ダイバーシティー)を受け入れる意識が必要だと主張する。
片岡奈美
【3つのポイント】①GDPの目減り、女性活躍推進で緩和②男性が100日の育児休業、女性は1年で職場復帰できる社会へ③女性管理職比率、遅くとも2045年には5割実現を |
25年後、経済力は世界7~8位へ低下
――25年後の世界で日本経済は存在感を維持していますか。
「人口減が予想される日本の国内総生産(GDP)は現在の世界3位から7位、8位へと下がるだろう。団塊の世代の子どもたちが45歳を超える2020年代後半には、(技術革新などを反映する)全要素生産性が天井を打つとされている。同じインプットでどれだけのアウトプットを出せるか。(一段の効率化が必要だが、)従来と同じ速さの変化では間に合わない。危機感を持って価値を生みだし、組織運営の変革などの課題に取り組む必要がある」
「意欲がありながら就業していない女性は300万人超とされる。女性が労働参加し付加価値をつくれば確実にGDPを底上げできる。国際通貨基金(IMF)のラガルド前専務理事は日本の実質GDPについて現状の政策のままだと40年間で25%ほど目減りするが、賃金格差をなくすなど女性活躍の推進を含めた労働力強化に取り組めば減少幅を10%程度に縮小できるとの試算を示していた」
女性の多くがパート、フルタイムでも賃金格差
――1986年の男女雇用機会均等法施行、99年の男女共同参画社会基本法施行にもかかわらず、世界経済フォーラムによる男女格差の度合いを示すジェンダーギャップ指数で日本は153カ国中121位です。
「日本の社会は高度な教育を受けた女性を十分に生かしきれていない。(30~40歳代の就業率が下がる)M字カーブはなだらかになったが、女性労働者の多くがパートタイムだ。フルタイムになっても男性の7~8割の賃金しかもらえないという格差も残る。女性がフルタイムで働ける環境を整え、性差に関係なく仕事に応じて同じ賃金を支払う仕組みにしないと女性が社会や経済に大きな影響を与えることはできない」
――女性活躍に必要な条件は。
「まず性別役割分担意識を改める必要がある。『男は外で仕事、女は家で家事や育児』というモデルは戦後の高度経済成長期の短い期間にみられたことにすぎない。それ以前の日本は長い間農耕社会で、多くの場合、男女が共に働きながら家事もしていたはずだ。世界では今やダイバーシティーが進んでおり、日本がどんどん後れをとっていることを意識すべきだ。男性が100日間は育児休業を取り、女性が長くても1年程度で(産休・育休から)職場復帰できる社会環境づくりをするといった目安を社会で共有していけばいい」
――女性の管理職比率は国が20年に30%という目標を掲げながら、16年度の厚生労働省データでは12%(10人以上規模の企業)にとどまりました。
「『女性だからできない』と決めつけたり、過剰に大切にしすぎたりしない。誰に対しても期待し、鍛え、失敗を許す組織づくりをしてほしい。男性にとっても良い組織になるはずだ。遅くとも45年にはフィフティー・フィフティー(女性比率50%)になっていてほしい。会社役員などの女性割合をあらかじめ定めて積極的に起用するクオータ制の導入など制度面からの改革も必要になるだろう」
オリンピック・パラリンピックを機に価値観を変えよう
――45年に向けて日本企業はどのように変わればよいでしょうか。
「若手以上に中間管理職の世代がもっとイノベーション(技術革新)を主導したり、転職できるようにしたりするなど、リスクを取れるようになってほしい。リスクを取った人に処遇で報い、昨日と同じ明日が来ると思っていてはいけない、と皆が思う組織風土への改革も必要だろう。女性だけでなく、個性も経験も人生で抱える問題も全く違う男性たちも、十把ひとからげに同じとすべきではない。個性豊かな人たちがそれぞれベストを発揮できる仕組みに、時間をかけてでも修正していければいい」
「『全員が自己ベスト』をめざす東京オリンピック・パラリンピックが20年に開かれるのを機に、日本社会の価値観が変わると期待している。現在の日本では教育や生活のなかで、知らず知らずのうちにすり込まれる『同調圧力』が強い。自分の価値観を押しつけず他人のことを想像できる社会になっていけば、人との適切な距離感を保ちつつ、ダイバーシティーを尊重できる」
川本裕子(かわもと・ゆうこ)氏 早大大学院経営管理研究科(ビジネススクール)教授。1982年東大文卒、東京銀行(現三菱UFJ銀行)入行。88年英オックスフォード大院修了、マッキンゼー東京支社に入社。パリ勤務などを経て2004年早大へ。16年から現職。金融庁や経済産業省の政府委員、三菱UFJフィナンシャル・グループなど大手企業の社外取締役を務めた
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