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明るい資本主義【02】見えざる手、非常時こそ真価

[ざっくり3行まとめ]

  • 民間企業はコロナ危機克服に役立つ商品・サービスを提供
  • 「見えざる手」という市場経済の力は非常時こそ真価を発揮
  • 政府に重要なのは市場経済の働きを妨げない大胆な規制緩和

新型コロナウイルスの感染拡大で国内外の株式相場が急落する中、逆に上昇する銘柄群が注目された。感染拡大に伴うさまざまなニーズに応えることで業績拡大が見込まれる、新型コロナ関連銘柄だ。

代表例はヘルスケア。米ギリアド・サイエンシズは「レムデシビル」、日本の富士フイルムホールディングスは「アビガン」の治療効果が期待されている。医療関連では、遠隔医療サービスを提供する米テラドック・ヘルス、LINEと共同出資し医師への健康相談サービスを行う日本のエムスリーの株価も上がった。

在宅勤務を支援する企業や、巣ごもり消費の恩恵を受ける企業への注目度も高い。米ズーム・ビデオ・コミュニケーションズは、ビデオ会議サービス「Zoom(ズーム)」の利用者が急増している。任天堂はゲームソフト「あつまれ どうぶつの森」が世界的なヒットとなった。ビデオチャットサービスを手がけるリンクバルは、オンライン飲み会の需要が増えているという。

※主な新型コロナ関連株

これ以外にも関連銘柄は多い。勝手な憶測で買われたものもあるかもしれないが、基本は業績拡大の見通しが裏付けとなっている。

■非常時には政府が経済を仕切る?

市場経済は、大規模災害などの非常時には十分に機能しないという意見がある。それによると、市場経済は便利だけれども、うまく機能するのは、平穏なときだけ。大災害やパンデミック(感染症の世界的大流行)といった非常時には、政府が前面に出て、経済活動を仕切らなければならないという。

コロナ関連企業の活躍を見ると、そうした意見は説得力に乏しい。感染症に有効な治療法やワクチンを開発し、発売するのは民間の医薬メーカーだ。国の研究機関が共同開発に加わる場合はあるものの、商品化して利用者に届けるメインの仕事はあくまで民間が担い、政府はせいぜい脇役だ。

それどころか政府はしばしば民間の仕事を妨げる。米政府は当初、連邦政府以外の研究機関にはウイルス検査方法の開発を認めなかった。批判を受けて今年2月末に規制緩和し、民間や州にも認めたところ、早くも数日後、大手民間病院クリーブランド・クリニック(オハイオ州)が開発に成功。連邦政府傘下の米疾病対策センター(CDC)の検査が判定に2~7日もかかったうえ不正確だったのに対し、同クリニックの検査方法なら8時間で判定できる。

政府が毎年多額の予算を投入する医療分野ですら、この程度だ。ましてや使い勝手のいいビデオ会議、他人とのつながりを感じられるゲーム、オンライン飲み会といった柔軟なアイデアを手ごろな値段で商品化することは、頭が固くコスト感覚に乏しい政府には、まず無理な芸当だろう。

民間企業は人々に感染症を予防・治療する希望をもたらし、在宅でも働ける利便を提供し、暗い気分を晴らす娯楽を届けてくれる。企業の活躍がなければ、コロナ危機をしのぎ、乗り越えることは、はるかに困難になったことは間違いない。

■自由な利益追求が社会の利益に

そうした民間企業の活躍を可能にするのは、利益追求と自由競争に基づく市場経済だ。企業は政治家と違って「国民の命と暮らしを守ります」と高らかに宣言したりはしない。黙って自分の利益のために行動するだけだ。利益をあげるには、競合他社よりも優れた商品・サービスを安い値段で提供しなければならない。それが結果として、消費者の命と暮らしを守ることになる。

各自の利益を追求しているだけなのに、結果として社会全体の利益になる。経済学者アダム・スミスは著書『国富論』で、市場経済のこの一見不思議な働きを「見えざる手」と表現した。

コロナ危機が明らかにしたように、市場経済の見えざる手は、平時はもちろん、非常時にも十分機能する。むしろ政府の対応が後手に回りがちな非常時こそ、その迅速さで真価を発揮すると言える。

スミスは、見えざる手の優れた働きについて述べた直後、冷ややかにこう書いている。「社会のために事業を行っている人が実際に大いに社会の役に立った話は、いまだかつて聞いたことがない」(山岡洋一訳)。国民の命を守ると言いながら、PCR検査など必要なサービスを十分提供できない政府に聞かせたい言葉だ。

■経済対策のカギは規制緩和

日本政府は、新型コロナ感染症対策として発令した緊急事態宣言を全国一律で5月31日まで延期した。非常時が長引く中で、市場経済が果たす役割はさらに大きくなる。政府にとって重要なのは、見えざる手がその力を存分に発揮できるよう、市場経済の働きを妨げないことだ。

カギとなるのは、各種規制の緩和・撤廃だろう。民間企業の行動を阻む規制があれば、すみやかに取り払わなければならない。遠隔医療や遠隔教育をしやすくするための規制見直しは、その一例だ。

新型コロナを受けた経済対策というと、財政政策や金融政策ばかりが話題になりやすい。けれどもそれらと並んで、かつてアベノミクスの「3本の矢」の1本だった成長戦略は、規制緩和を強調していた。

この機会に時代遅れの規制を大胆に見直せば、現在の苦境を克服するのに役立つだけでなく、将来の成長への土壌が整う。コロナ禍を転じて福となすことができるはずだ。

 

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■木村貴の明るい資本主義【01】マスクが語るグローバル経済の底力

著者名

QUICKリサーチ本部長 木村 貴


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