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明るい資本主義【05】経済支援、補助金より減税で

[ざっくり3行まとめ]

  • 事業主や従業員への財政支援は長い目では本当の支援にならず
  • 店舗家賃補助や雇用維持策は経済の創造的破壊を妨げ転職機会を減らす
  • 痛みを和らげるには手元に届きにくい補助金より減税の活用を

財政で大盤振る舞いをすれば経済は良くなると、政府は主張し、それを多くの人が支持する。毎度おなじみの光景だ。

政府は5月27日、新型コロナウイルスの感染拡大に対応する今年度の第2次補正予算案を閣議決定した。一般会計の追加の歳出は総額31兆9114億円と、補正予算としては過去最大の規模だ。事業規模は1次補正予算と合わせて200兆円を超える。

※2020年度第2次補正予算案のポイント

安倍晋三首相は同日、首相官邸で開いた政府・与党政策懇談会で「GDP(国内総生産)の4割に上る世界最大の対策によって100年に1度の危機から日本経済を守り抜いていく」と強調した。

第2次補正予算案の柱の一つは、緊急事態宣言による休業要請で打撃を受けた事業主や従業員への追加支援策だ。けれども残念ながら、政府の財政による支援は長い目で見ると、本当の支援にならない。むしろ助けるはずの相手を苦しめる恐れさえある。

■財政支援は創造的破壊を妨げる

経済が発展する条件の一つは「創造的破壊」だ。停滞する産業・商品に代わって新しい成長産業・商品が絶えず登場する経済のダイナミズムを指す。経済学者ヨーゼフ・シュンペーターによれば、創造的破壊は資本主義経済の本質をなす。

ところが政府の財政支援は、創造的破壊を妨げる。

第2次補正予算案では目玉の一つとして、飲食店など家賃支払いが困難な事業者への補助として最大600万円を支給する。飲食店の多くは休業要請の影響で売り上げが急減しており、家賃補助があれば一息つけるだろう。

だが休業要請が解除された後も飲食店などの来客数が以前の水準に戻らず、低迷が続くとしたら、売り上げの大きな回復は望めない。

それどころか、緊急事態宣言が5月25日に全面解除された後、北九州市と東京都で感染者が再び増え始め、感染の「第2波」への警戒が広がっている。最悪の場合、再び休業要請が実施されれば、売り上げがまた落ち込むのは必至だ。そうなれば、結局は閉店や立ち退きに追い込まれる可能性は大きい。

仮に家賃補助のおかげで、店が半年延命でき、その間、立ち退かずに済んだとしよう。これは一見、良いことのように思える。けれども経済学的に考えれば、そうとは言えない。

コロナ後の世界で飲食店の市場規模が構造的に縮小するとしたら、店舗スペースという限りある経営資源は、飲食店から新しい成長産業へと移っていくのが望ましい。ところが政府が家賃補助を行うと、この変化を遅らせてしまう。

これは長い目でみると、飲食店の店主自身にも不利になる。商売に見切りをつけ、どこかの会社に勤めようと思っても、採用に前向きな成長産業が少なければ、転職のチャンスはそれだけ小さくなるからだ。

※経済が大きな転換点に立たされているときこそ、創造的破壊による産業構造の変化が急がれる

経済が大きな転換点に立たされているときこそ、創造的破壊による産業構造の変化が急がれる

■助けようとした相手を苦しめる

雇用維持策にも同じことが言える。第2次補正予算案では、雇用調整助成金(雇調金)の上限を1人あたり日額1万5千円に引き上げた。雇用を維持しながら従業員に休業手当を支払う企業に対し、国が手当の一部を助成する制度だ。

こちらも良いことのように思えるが、雇用が人為的に維持されれば、その分、停滞産業から成長産業への労働力の移動が遅れてしまう。

いずれ雇用維持が限界に達し、従業員が解雇されれば、失業者は一気に増える。成長産業が育っていなければ、再就職は厳しい。

家賃補助にしても雇調金にしても、短期では痛みを和らげる効果はある。けれども長期では、助けようとした相手をかえって苦しめることになる。経済が柔軟に変化していく創造的破壊を妨げるからだ。

シュンペーターはこう強調する。「資本主義とは本来、経済がどのように変化していくかという変化の形態・方法であり、決して静態的なものではないし、静態的ではあり得ない」(大野一訳「資本主義、社会主義、民主主義」)

経済が大きな転換点に立たされているときこそ、創造的破壊による産業構造の変化が急がれる。

もちろん成長産業が育つには一定の時間がかかる。その間の痛みを和らげる政策はあっていい。そのためには補助金、助成金、給付金といった政府から支給されるお金よりも、優れた方法がある。減税だ。

■消費減税の主張も

支給と減税は、手元のお金が増える点で似ていても、その意味や使い勝手は大きく違う。補助金や助成金は原則、特定の目的に限って支給され、それ以外の目的に使うことはできない。

これに対し、減税で手元に残ったお金は自分のお金だから、何に使おうと自由だ。飲食店の店主であれば、生活費の足しにしてもいいし、新しい商売の準備に使ってもいい。用途を縛られたお金より、自由に使えるお金のほうがありがたいに決まっている。

また、政府から支給されるお金は、手元に届くまでに時間がかかりがちだ。1次補正で計上した1人10万円の給付金は大半の家庭に届いていない。厚生労働省の雇調金のオンライン申請システムは初日にトラブルが発生し、停止してしまった。何ともお粗末だが、減税なら、そんな無駄な時間はかからない。

自民党内の議員グループは消費税の減税を主張している。トランプ米大統領は追加経済対策として、労使双方が負担する「給与税」の減免の検討に入った。日本でいえば厚生年金保険料にあたる。

対象はこの際、何でもいい。苦しむ市民を楽にする減税は、昔から善政として称えられてきた。試みる価値はあるはずだ。(QUICKリサーチ本部長 木村 貴)

著者名

QUICKリサーチ本部長 木村 貴


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