外国為替市場でユーロ買いが加速している。対円では1ユーロ=124円32銭近辺と2019年5月以来、ほぼ1年2カ月ぶりの円安・ユーロ高水準を付けた。きっかけは欧州中央銀行(ECB)による大規模な追加金融緩和だ。金融緩和は教科書的には当該通貨の下落要因だが、投資家は欧州景気の回復を先取りしたユーロ買いで反応した。実体経済の厳しい現状から目をそらし、期待で買われるという展開は足元の世界的な株高と似通う。ユーロ独歩高の局面はそう長く続かないかもしれない。
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※ユーロ円は1ユーロ=124円台に接近している
■予想上回る「満額回答」
「市場参加者にとって満額回答といっていい内容」──。第一生命経済研究所の田中理氏はこう評価する。ECBは4日の理事会で、3月に新設した「パンデミック緊急購入プログラム(PEPP)」の資産買い取り枠を従来の7500億ユーロから1兆3500億ユーロに拡大すると決めた。
併せて、少なくとも20年末としていた政策の期限を21年6月末まで半年延長し、満期を迎えた債券の再投資を22年末まで行うとした。米ブルームバーグ通信の事前調査では、市場参加者の「圧倒的多数」は5000億ユーロの増額と見込んでいたため、予想を上回る大盤振る舞いとなった。
■イタリア国債買いでリスクオンに
追加緩和が通貨買いにつながった理由として、あおぞら銀行の諸我晃氏は「イタリア国債などが買われたため、リスクオンの材料とされユーロ高につながった」と分析する。財政悪化に苦しむイタリアなど南欧諸国の景気下支えへの期待が前面に出たというわけだ。
第一生命経済研の田中氏は「ECBが今後の金融緩和の道を作った意義も大きい」と指摘する。ラガルド総裁はPEPPの拡大について、中期的な物価の安定確保も引き合いに出した。新型コロナウイルスの感染者数の動向だけでなく「経済への打撃が続く限りPEPPの拡大で対応するとも解釈できる」(田中氏)ためだ。
■過度なユーロ高で反落リスクも
もっとも、足元のユーロ高を行き過ぎとみる声も少なくない。あおぞら銀の諸我氏は「危うい楽観に傾いている株高の流れを受けた買い。欧州は経済回復では出遅れており、株安の場面では売られやすいだろう」と指摘する。
ユーロは対ドルでも1ユーロ=1.13ドル台と約3カ月ぶりの高値を付けた。IG証券の石川順一氏は、短期的には1.14ドル台を試す展開を見込む一方、反落リスクも大きいと指摘する。通貨オプション市場でユーロの対ドル相場の予想変動率(インプライド・ボラティリティー)は1週間物で8%台にある。その上で「3月に1.14ドル台に上昇した際には15%近くだったことを踏まえると、米ドル安によるイレギュラーな上昇とも考えられる」とみていた。
ユーロにとって次の大きな材料は、6月18~19日に予定される欧州連合(EU)首脳会議だ。足元のユーロ高を支えるもう1つの柱である復興基金の実現には加盟国の全会一致が必要だが、財政が健全で規律を重視するオランダや北欧諸国は導入に反対の姿勢を示すとみられる。協議の難航が伝われば上昇基調が転機を迎える可能性がある。そして何より、世界的に「危うい楽観」が後退する局面では、過度に買われたユーロの下落余地も大きくなりかねない。〔日経QUICKニュース(NQN) 藤田心〕