ESG(環境・社会・企業統治)の「S」の取り組みで日本のICT(情報通信技術)企業はグローバルで後れを取っている――。サプライチェーン上の強制労働リスクに関する情報を発信する団体KnowTheChainが実施した調査でこんな結果が示された。新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、労働・人権リスクに対する各企業の対応に関心が集まる中、国際基準で見て日本企業は改善余地が大きいことを浮き彫りにした。
KnowTheChainが世界の電機・電子企業49社(欧州8社、北米23社、アジア18社)を対象に実施した今回の調査は、各社のサプライチェーンにおける強制労働リスクへの対応状況について、国連ビジネスと人権に関する指導原則に基づき、①コミットメントとガバナンス②トレーサビリティ(サプライチェーン情報の把握・追跡)とリスクアセスメント③調達行動④採用活動⑤労働者の声⑥モニタリング⑦救済措置――の7つの観点で評価(100点満点)した。
■強制労働リスク対応、グローバルで後れを取る日本企業
調査結果によると、評価でトップに立ったのはヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)でスコアは70点だった。次いで、HPとサムスン電子がそれぞれ69点、インテルがそれぞれ68点で続いた。
一方、日本企業は今回10社が評価対象となったが、その多くが下位に沈んだ。最も評価が高かったのはソニーだったが36点どまり。その他は、日立製作所(27点)、任天堂(23点)、村田製作所(18点)、東京エレクトロン(16点)、キヤノン(14点)、パナソニック(13点)、HOYA(13点)、京セラ(10点)、キーエンス(6点)という結果になった。
人権リスクに関する日本企業の対応の遅れは数字上、顕著だ。調査対象49社全体の平均スコアは30点で、KnowTheChainが「グローバル企業のほとんどがサプライチェーンの労働者を深刻な強制労働のリスクにさらし続けている」と厳しい目を向ける中で、日本企業10社の平均スコアは18点と、低水準といえる全体平均をも大きく下回った。これは、台湾や韓国企業の平均も下回る水準だった。
■日本企業の「S」対応の問題点は「方針と実践のかい離」
詳細を見ると、日本企業の低スコアの要因が明らかになる。例えば、日本企業は「①コミットメントとガバナンス」への評価は高い。実際、上場企業において、人権方針やサプライヤー向けCSR(企業の社会的責任)ガイドラインの策定などを進める動きがみられる。
一方、評価が低いのは「②トレーサビリティとリスクアセスメント」や「⑦救済措置」などだ。トレーサビリティでは「一次サプライヤーの名称や住所を公開しているか」が評価項目の一つになっているが、日本企業はソニーを含め全10社が開示していない。その点、ソニーのライバルで、総合評価で2位だったサムスン電子は取引高の7割に当たる一次サプライヤーの名称・住所を公開している。
「⑦救済措置」では、サプライヤーも利用可能な苦情処理メカニズム(人権侵害の被害者の申し立てを受け付け、救済するための仕組み)を導入している日本企業は7社だが、実際にサプライヤーが使用したという証拠を開示している企業はゼロだった。
このように日本企業は、体制や方針は示すものの、具体的な取り組みが欠如・不足しており、「方針と実践にかい離が見られる」(KnowTheChain)のが大きな問題点といえそう。見えないリスクを「見える化」するとともに、さらに一歩進めて透明性をもたせて開示・実践することが、今後の日本企業に求められる重要ポイントになりそうだ。
■新型コロナウイルス危機で高まる労働者の人権リスク
全体を見渡すと、新型コロナウイルスの世界的な蔓延により、特に末端レベルのサプライチェーンにおける労働者は脆弱な立場に置かれている。安全衛生が不十分な職場環境で働かざるを得ず、感染リスクが高まったり、職場の休業などにより収入が断たれることで、搾取されるリスクの高い労働に従事しかねないという負のサイクルが生まれる懸念が強まっている。移民労働者や非正規労働者などコロナ危機以前にも弱い立場にあった労働者においてこうしたリスクの高まりは顕著だ。
KnowTheChainのプロジェクトリーダーを務めるフェリシタス・ウェーバー氏は「ICT企業のスコアの低さは、同業界が新型コロナウイルスのようなショックに弱いこと」を示していると指摘。そのうえで「企業や投資家は、ビジネスの大崩壊と労働者の困窮をもたらす、サプライチェーンの潜在的な労働者の権利の問題に対処しなくてはならない」と警鐘を鳴らしている。(QUICK ESG研究所アナリスト 平井采花)
▽KnowTheChainは人権や平和構築に携わる民間財団のHumanity United、ビジネスと人権リソースセンター、ESG評価会社Sustainalytics、労働分野の国際NGOのVeriteのパートナーシップにより活動している。KnowTheChainベンチマークは、情報通信技術(ICT)部門のほか、食品・飲料部門、アパレル・フットウェア部門で評価を実施している。(QUICK ESG研究所)