日本で外国為替証拠金(FX)取引を手掛ける個人投資家の間で、トルコの通貨リラの人気が下がっている。かつては利息収入を狙う個人投資家が積極的に買いを入れていたが、トルコ中央銀行による相次ぐ利下げで投資妙味が減少した。新型コロナウイルスの感染「第2波」で世界経済の回復に遅れが出れば、個人投資家という支えを失ったリラは5月に付けた過去最安値を再び下回る可能性もある。
■人気が落ちたトルコリラ
リラ人気の低下は値動きに表れている。新型コロナ拡大を受けてリラの対円相場は急落し、5月はじめには一時1リラ=14円台後半と過去最安値を付けた。足元では1リラ=15円台で上値が重く推移しており、リラに買いが集まっている様子は見えない。急落後に買いが集まってリラ相場が急上昇した2018年とは対照的だ。
あるFX会社関係者は「体感として、リラ買いの残高はコロナ前から3割ほど減っている」と語る。高金利通貨であるリラは、利息収入に相当する「スワップポイント」を狙う個人投資家から人気が高かった。そのため一時的に売りが膨らんで相場が急落しても、安値圏ではすかさず個人投資家による買いが入っていた。だが「現在は新しい注文がほとんど入らない状況」(前出のFX会社関係者)だという。
■リラ買い敬遠の理由
リラ買いが集まらない最大の理由は、中銀による相次ぐ利下げだ。トルコ中銀は5月21日、政策金利を0.5%引き下げ8.25%とした。利下げは9会合連続だ。政策金利が下がると、FX取引での利息収入も減少する。外為オンラインの佐藤正和氏は「19年から政策金利が急落し、リスクに見合った投資妙味が無くなっている」と話す。
先行きのトルコ経済が低迷するとの見方も、個人投資家がリラ買いを敬遠する動きにつながっている。中東関連の地政学リスクが意識されやすいうえ、新型コロナの感染拡大が国内経済に打撃を与えた。国際通貨基金(IMF)は、トルコは20年に5%のマイナス成長になると予想する。経済の落ち込みが続けば、中銀の利上げも見込みにくくなる。
マネースクエアの八代和也氏は「リラは5月に付けた対円での過去最安値を割り込む場面もあり得る」と指摘する。足元の外国為替市場では新型コロナの感染「第2波」への警戒感から、「低リスク通貨」とされる円を買う動きがじわりと広がる。個人投資家という支えを失ったリラに、上昇シナリオはまだ描けそうにない。〔日経QUICKニュース(NQN)井田正利〕