国際商品市場で、銀先物価格の上昇が際立っている。新型コロナウイルスの感染拡大が金融市場を揺さぶった3月以降をみると、最高値更新で注目を集める金先物を上回る堅調ぶりだ。上場投資信託(ETF)を通じて資金が流入しているほか、商品投資顧問(CTA)も買い持ち高を積み上げ始めている。金と比べた割安感に加え供給不安もあり、市場では強気の見方が広がっている。
■流入経路はETF
金先物価格を銀先物で割った比率である「金/銀レシオ」をみると、銀の強さがはっきりする。9日のニューヨーク市場で金先物の中心限月である8月物の清算値は1トロイオンス1803.8ドル、銀先物の9月物は同18.96ドルで比率は95倍だった。新型コロナの感染拡大を受けて3月中旬に125倍まで上昇した後は急速に低下し、「コロナ・ショック」後で最も低かった6月1日(93倍)に迫る。
上場投資信託(ETF)を通じた資金流入が顕著だ。カナダの投資銀行カナコード・ジェニュイティによると、銀を投資対象とするETFの銀保有量は7日時点で2万5000トンを超え過去最大となったようだ。年初来では6273トン増えた。リーマン・ショックで安全資産への需要が増えた2009年(4274トン)の1.5倍だ。一方で金ETF保有量の増加幅は656トンと、09年(643トン)並みにとどまる。
先物を売買するCTAも強気に傾いている。市場推計でCTAは7月に入って売りから買いに転じ、買い持ち高を積み上げ続けている。金先物の買い持ち高も膨らんでいるが、この間の持ち高はおおむね横ばいを維持しており、一段と買い増す動きはない。
■カメラから太陽光パネル
銀の上昇について多くの市場関係者が口をそろえるのが、金と比べた割安感だ。金が1900ドルを超え史上最高値を更新した2011年9月ごろは銀が40ドル強で、「金/銀レシオ」は45倍ほどだった。その時点といまを比べると、金の高値更新が視野に入る一方、銀は半値以下にとどまる。同じ安全資産であれば金と同様に銀も買われるはずで、見直し余地が生まれている。
銀の低迷が長引いた背景は、工業用向け需要の減少だ。主用途だったフィルムカメラが減少したため、需要の先行き不安がここ10年の銀の上値を抑えてきた。だが、いまは新たな用途である太陽光パネルがカメラ向けの減少を補っている。太陽光パネルは今後の成長が期待され「銀需要は一段と増え、価格を支える」(楽天証券経済研究所の吉田哲コモディティアナリスト)。
銀は同じ貴金属でも、自動車排ガス用触媒に限られる白金と比べて用途は広い。世界的な財政政策などを背景に景気が持ち直すのであれば、白金と比べて受ける恩恵は大きい。
■影響はコロナからも
新型コロナの感染拡大による需給の引き締まり観測もある。銀の2大主産国はメキシコとペルーで、いずれの国も新型コロナが猛威をふるっている。「工業向け需要は復活したものの、いったん再開した鉱山が再び閉鎖される懸念がある」(仏ソシエテ・ジェネラル)といい、供給減への警戒感が根強い。現物市場では新型コロナの影響で在庫の動きが制限されるとの思惑もあり「予想をはるかに超える価格に上昇する」との見方も出ている。
「金のラリーに参加していなかったり、金が高すぎると感じていたりする投資家が銀に向かう可能性がある」。英HSBCは9日付リポートで、こう指摘する。最近の金融市場では金のまばゆい上昇に目を奪われがちだが、銀が金以上に輝く日は近いかもしれない。(日経QUICKニュース(NQN) 松下隆介)