再生可能エネルギー業界における労働者および地域社会の保護に関する取り組みを初めてベンチマークした結果、世界最大手の風力・太陽光発電事業者の半数近くは、人権保護に関する評価が著しく低いことが判明した。
新しい人権ベンチマーク「Renewable Energy & Human Rights Benchmark」は、国際人権NGOのビジネスと人権リソースセンター(BHRRC)が、Boston Common Asset Management、PRI(責任投資原則)、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのGrantham Research Instituteなどの支援を受けて作成した。上場している風力・太陽光発電事業者16社の取り組みを国際的な人権基準に基づいて評価・ランキングしたものだ。
評価対象企業16社のうち、7社はスコアが10%未満にとどまり、全体の4分の3に当たる12社は40%を下回る結果となった。平均スコアは22%で、業界全体として、自社およびサプライチェーンにおける人権尊重が遅れている現状を物語っている。
また、調査結果によると、2010年以降、再生可能エネルギー業界では少なくとも197件の人権侵害(殺人、脅迫、土地収奪など)の申し立てがあり、2019年は約40件に上ったという。
評価対象となった16社は、Iberdrola、Acciona、Orsted、Enel、EDP、EDF Energy、Engie、E. ON、RWE、Jinko Solar、NextEra、Southern Company、中国広核集団、中国電力建設、ブラックロック、ブルックフィールドである。ブラックロックとブルックフィールドは事業者ではないが、ブルームバーグのデータベース上、保有運転容量で上位にのぼったため、調査対象に含まれた。
今回最高評価を受けたIberdrolaでさえもスコアは53%にとどまり、メキシコとブラジルで先住民の権利を侵害したと報告されている。
Iberdrolaにわずかの差でAcciona(51%)、Orsted(47%)およびEnel(44%)がランキング上位に名を連ねている。
低評価の企業は、中国電力建設(0%)、中国広核集団(2%)、米Southern Company(3%)だった。
パッシブ運用最大手のブラックロックと資産運用会社ブルックフィールドのスコアはそれぞれ6%と4%だった。
ビジネスと人権リソースセンター(BHRRC)のMarti Flacks副所長は、「今回の評価の結果、残念ながら再生可能エネルギー業界は人権への取り組みが不十分なことがわかり、特に土地への権利や先住民の権利を侵害しているケースが目立つ。これは地域社会に害を及ぼすだけでなく、プロジェクトの遅延やコスト増につながる恐れがあり、ネットゼロ社会への移行実現の妨げになりかねない」と警告している。
土地への権利の尊重に関する評価では、16社全てが0%で、先住民の権利保護を公約としている企業はわずか1社にとどまった。
今回の調査は、地域社会の権利侵害が、企業にとって財務コストとなることも指摘している。例えば、ノルウェーの風力発電事業者BKW Group (BKW)が土地を収奪された北欧の先住民族のサミー族から賠償を求められたケース、中国Jinkosolar Investmentがメキシコの太陽光発電所で地域社会の合意を得なかったことで訴えられたケース、ケニアの地域農民や地主が起こした訴訟により風力発電所の建設が中止されたケースなどがある。
今回の調査では、CHRB(Corporate Human Rights Benchmark)の13のコア指標を採用し、各企業の国連「ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs)」への準拠状況を評価した。その他、19の指標に基づき、再生可能エネルギー業界で特有な人権リスクへの対応を評価した。評価対象の16社全てが、UNGPsの要件を反映した13のコア指標のうち少なくとも1つでスコアが0%だった。
つまり指導原則(UNGPs)を完全に遵守している企業が16社のうち1つもないことも示した。これは、EUタクソノミーが施行される欧州地域の投資家が特に重視すべき点である。EUタクソノミーは、グリーンな経済活動が最低限のセーフガードに準拠した場合にはじめてサステナブルと認定する。この最低限のセーフガード基準の一部は指導原則(UNGPs)に基づいている。今回の調査は、基本的人権の尊重という義務の遂行に関して、再生可能エネルギー業界はアパレル、農業、採掘産業といった人権リスクの高い業界と同様にリスクを抱えており、より厳格な監視が必要であることを示している。
メアリー・ロビンソン(Mary Robinson)元アイルランド大統領は、報告書の序文で、「このベンチマークは、再生可能エネルギー業界内で人権をめぐるベストプラクティスの採用を加速させるために必要な情報を、企業、投資家、政府および市民社会全体に示している。そして、課題がなお山積しているという現実を突きつけた」と述べている。
さらに「投資家は、企業による人権の尊重と地域社会との有意義なエンゲージメントの実施は任意ではなく義務であるとの期待を明確に示し、取り組みが不十分な企業に対しては、積極的に行動を取るべきだ」とも指摘した。
再生可能エネルギーは脱炭素社会への移行に不可欠だが、その移行は「公正な移行(Just Transition)」である必要がある。労働者や地域社会の権利を犠牲に実現されることは許容されない。
※本稿は、レスポンシブル・インベスター(Responsible Investor)の掲載記事をQUICK ESG研究所が翻訳、編集したものです。同社は、ロンドンに拠点を置く、世界の機関投資家に向けた責任投資、ESG、サステナブル・ファイナンスを専門的に取り扱うニュースメディアです。
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