大和証券グループは8月17日、ESG(環境・社会・企業統治)投資およびSDGs(持続可能な開発目標)/ESG投資に関するメディア向け勉強会を開催した。大和総研による第一部「ウィズ・コロナ時代のESG投資」では、2018年度末時点で国内機関投資家によるESG投資残高が336兆円と、2016年時点と比べ倍増した点を踏まえ、ESG投資が増加傾向にあることや、欧米や日本の機関投資家向けアンケートの結果からESG投資で銘柄を除外・選定する際に重視するテーマ・項目が紹介された。
■ESGの課題
コロナ禍で「S(社会)」の重要性が増したことや、2019年に発生した自然災害による経済的損失(1位は日本の台風19号による被害で損失額が150億ドル、また3位にも台風15号が損失額100億ドルでランク入り)で、気候変動への適応は待ったなしの状態にあると指摘した。石炭をはじめとする化石燃料から投資を引き揚げるダイベストメント額が2013年以降、右肩上がりにあることも踏まえ、異常気象や気候変化が金融環境への悪影響を及ぼす物理的リスク(台風に被害による損害保険会社の保険料支払いの急激な増加など)や気候政策やテクノロジーの進化がもたらす移行リスク(化石燃料の価格下落による事業投融資や投資先株価の下落など)について述べた。ESGを巡る課題として、「利用可能なESG関連情報の制約」、「ESG投資と金銭的リターンの関係性」「ESG要素の将来予想に対する本質的な難しさ」「専門知識を活用できる体制整備」の4点を挙げ、実務上の課題が指摘されつつも、規模の拡大が続いているほか、気候変動は金融システム上のリスクであると認識されており、金融当局の関心も高まっているとの見解を示した。
■企業戦略の一環
大和証券による第二部「なるほど!SDGs/ESG投資」では、SDGsの認知度が加速している点や日本がSDGsを重視する訳について解説がなされ、社会課題などSDGs達成には民間資金の活用が不可欠であることから資金調達の1つとしてESG投資があるとの見方が示された。またコロナ禍で「S(社会)」への関心が高まっている背景には、19年8月に米主要企業で構成する「ビジネス・ラウンドテーブル(BRT)」で「株主至上主義」の修正を宣言したことがあったと指摘した。BRTには、ウォルマートや、GE、JPモルガン、アマゾン、ブラックロックなど180を超える企業が署名。コロナ禍での労使関係や労働環境、警官暴力による黒人男性の死亡事件などを経て、企業価値の維持や向上のためのリスク管理および企業戦略の一環として注目を集めており、今後も続く流れにあるとの見解を示した。また個人投資家にもESG投資の潮流が広がっており、女性活躍推進企業「なでしこ銘柄」や脱プラスチックに関連する銘柄などへの関心が高まっていると指摘した。(QUICK Market Eyes 川口究)
<金融用語>
ダイベストメントとは
投資している金融資産を引き揚げること。持ち株や債券を手放したり、企業が自社事業の売却や他社への融資を停止したりすることを指す。 投資判断の際「ESG(環境、社会、企業統治)」を重視する考え方が広がり、特に石炭や石油などの化石燃料、武器やたばこなど環境や社会、健康に害を及ぼすとされる企業への投資撤退や取引中止の動きが欧米を中心に活発化している。