5月下旬、米ミネソタ州ミネアポリスで黒人男性のジョージ・フロイド氏が白人警官に首を圧迫されて亡くなった。この事件を機に、「#BlackLivesMatter(#BLM 黒人の命も大切だ)」のスローガンとともに各地で抗議デモが広がり、人種差別をめぐる問題が米国社会を揺さぶっている。ESG投資が一気に拡大した金融市場にとっても他人事として無視できるものではない。
■「人種問題ETF」の不本意な上昇 米黒人暴行死で売買急増
「インパクト・シェアーズ NAACP マイノリティ・エンパワーメントETF」(NACP)。このETF(上場投資信託)は人種問題を投資のテーマにした金融商品だ。NAACP(全米黒人地位向上協会)とモーニングスターが共同開発したモーニングスター・マイノリティ・エンパワーメント指数を基準にして運用する。2018年の上場以来、ほぼ米株式相場全体に沿った値動きだったが、今年は様相が異なる。過去6カ月間のパフォーマンスはS&P500指数を5%ほど上回った。
※1月3日を基準に100としてNACPインパクトETFとS&P500指数を指数化
5月25日、黒人男性ジョージ・フロイド氏が白人警官の暴行で亡くなった。この時期にNACPの売買高は急増した。ETFに組み入れられているのはマイノリティーに配慮した経営をしているとみなされた企業だ。アマゾン・ドット・コム(AMZN)やマイクロソフト(MSFT)、ジョンソンエンドジョンソン(JNJ)などが上位に並ぶ。運用によって得られた収益はNAACPの活動に寄付される。
環境や社会への貢献を投資判断の1つとするESG投資は、欧州を起点に世界へと広がった。人種差別の問題はESG投資の「S」(ソーシャル)に含まれ、NACPにESGマネーが向かってもおかしくない。ニッセイ基礎研究所の矢嶋康次チーフエコノミストは「事件を契機にして、このETFに注目が集まったようだ。一過性の現象なのか、現時点では判断しにくい」と話す。米国社会にとっては歓迎すべきではない不本意な上昇かもしれない。
■米企業のESGスコア、人種差別問題で変化
全米に広がった抗議デモを受けて、米企業は相次いで賛同するメッセージを発信した。代表的な例がスターバックス(SBX)とネットフリックス(NFLX)だ。企業の行動は社会的な評価に影響したのか。環境や社会問題に対する姿勢を評価する「ESGスコア」の変化から読み解く。
スターバックス対応揺らぐ
独ESG評価会社アラベスクS-Rayが算出するESGスコアを使った。人材活用など多様性が反映される「ダイバーシティスコア」の推移を見ると、スターバックスはスコアがいったん上昇した後、下落している。同社は5月末の事件発生直後、ケビン・ジョンソン最高経営責任者(CEO)が全社員に「#BlackLivesMatter」との声明を出した。
6月に入ると店員の服装の基準が話題となった。同社はドレスコードを定めており、デモ活動が特に熱を帯びていた6月上旬ごろ「#BLM」に関連したTシャツやアクセサリーの着用を禁止すると通告したという。しかし、その数日後には全社員に「#BLM」とプリントされたオリジナルのTシャツを配布して着用を促した。短い期間で正反対の対応をとった点が「スコアが下がる要因となった」(アラベスクの雨宮寛氏)という。実際、この時期にダイバーシティスコアは下落した。
ネットフリックスは特設ページ
ネットフリックスは、事件発生直後にツイッターで発信したメッセージが話題となった。「黙っていることは共犯だ。BlackLivesMatter」。これが人種差別に憤る人々の背中を押す言葉になったようだ。6月中旬には、「#BLM」に関連する作品を集めた特設ページを開設した。黒人差別問題をテーマにした作品の放映を通じて、「#BLM」を訴えている。一連の期間を通じネットフリックスのダイバーシティスコアは上昇している。
2020年は黒人が理不尽な被害にあう事件が相次いでいる。2月23日にはアフマド・アーベリー氏、3月13日にはブレオナ・テイラー氏が白人により射殺された。フロイドさんの事件の後も、黒人が白人に脅かされる事件は後を絶たない。また、ニッセイ基礎研の矢嶋氏は「新型コロナウイルスの感染による死亡率は黒人が突出して高い。企業経営者は人種問題への関心を高めている」と指摘する。
今月11日には、民主党のバイデン前副大統領が、副大統領候補に黒人のカマラ・ハリス上院議員を選んだと発表した。バイデン候補は、黒人はじめ人種差別問題の解消を政策に掲げる。人種問題への対応は大統領選挙の重要な論点となっており、今後の株式市場においてもひとつのテーマとなりえそうだ。(QUICK Money World 佐藤 梨紗)