外国為替証拠金(FX)取引に参加する個人投資家「ミセスワタナベ」は、相場が膠着状態の円・ドル取引を横目にユーロ・ドル取引に活路を見いだしている。7月の店頭FX53社のユーロ・ドルの取引額は4年7カ月ぶりの高水準となった。ユーロ圏の景気回復期待からユーロの対ドル相場は上昇し、個人は得意の「逆張り」でユーロ売り・ドル買いに動いている。
■ユーロ高加速
金融先物取引業協会が8月17日公表した7月の店頭FX取引状況によると、ユーロ・ドルの取引額は44兆3330億円と2015年12月以来の大きさになった。総建玉に占めるユーロ売りは2723億円、ユーロ買いは1006億円で、ユーロ売りに大きく傾いていた。
ユーロ相場は7月に前の月末と比べ4.8%上昇した。7月31日には一時1ユーロ=1.1908ドル近辺と2年2カ月ぶりの高値を付けた。欧州連合(EU)各国首脳が新型コロナウイルスの復興基金の創設で合意したのがユーロ高加速のきっかけになった。感染拡大で打撃を受けた域内経済を支えるもので、EUが債務を共有する共同債の発行も決まった。EUが現在のような金融政策の統合にとどまらず、財政統合に進むきっかけになるとの見方も根強い。
■「逆張り」のミセスワタナベ
相場の先高観が強まると、売り向かうのがミセスワタナベだ。「ユーロの先行きに弱気な個人投資家がユーロ売り・ドル買いの『逆張り』ポジションを仕掛けていた」(外為どっとコム総合研究所の神田卓也調査部長)という。相場が織り込むほど欧州と米国で景況感の格差は広がらないとの声も多い。神田氏は「ユーロは1.2ドルという心理的な節目が近づき、いったんピークアウトしそう」とみていた。
FX取引における全通貨ペアの7月の取引総額は457兆円だった。前年同月を上回ったが、548兆円だった6月からは減少した。取引の割合が最も大きい円・ドルは相場の方向感が乏しく、収益機会を期待しづらい。ミセスワタナベは今後も値動きの大きい通貨ペアを求め、資金シフトに動きそうだ。〔日経QUICKニュース(NQN)末藤加恵〕
<金融用語>
ミセスワタナベとは
外国為替市場で、日本の小口の個人投資家のこと。日本の為替市場で、昼休み時間帯などに、個人投資家のFX取引が市場を動かす要因となったことがあり、日本の個人の代名詞として「ワタナベ」が英国で使われ始めたのがきっかけ。