通貨防衛時の資金源となる外貨準備がアジアの主要新興国で積み上がっている。インドとインドネシア、フィリピンの外貨準備高は過去最高の水準まで膨らんだ。新型コロナウイルスとの戦いに終わりがみえず、各国は景気低迷の長期化と資金流出の再燃リスクに直面し続けているが、積み上げた外貨準備は市場に一定の安心感をもたらしている。
■外貨準備が増えた理由
中央銀行の統計によるとインドの外貨準備は8月28日時点で5414億ドル(約57兆円)、インドネシアは8月末時点で1370億ドル(約15兆円)だった。フィリピンは7月末時点で986億ドル(約10兆円)に達していた。現地メディアではいずれも「過去最高」と報じられている。
外貨準備が増えた最大の要因は8月にかけて米ドル安が進み、自国通貨売り・米ドル買いの為替介入をしやすくなっていたことだ。さらにここにきて貿易収支が改善。インドでは6月、約18年ぶりの貿易黒字を記録した。実態は国内経済の停滞を受けた輸入の落ち込みによる「悪い収支改善」だが、いずれにしろ中銀は通貨安加速を心配せずに米ドル買い介入を実施できた。
■「増加を続けそうだ」
インドネシアとインドは主要7カ国(G7)に欧州連合(EU)とロシア、新興国11カ国を加えた20カ国・地域(G20)に属し、通貨安誘導を目的とした介入は自重しなければならない。一方、自国通貨高が進んでいるときには将来の下落局面への備えとして米ドルを蓄えることが多く、他の国も基本的には黙認している。
インドやインドネシア、フィリピンといえば新型コロナの感染抑制と経済活動との両立に苦戦している国の代表格だ。しかもマネーのリスク回避局面で投資資金が流出しやすい経常赤字国でもある。「転ばぬ先のつえ」への意識は強い。シンガポールのユナイテッド・オーバーシーズ銀行はインドネシアなどについて「外貨準備は今後も緩やかに増加を続けそうだ」との見方を示す。
■金の売却
米ドル安の恩恵はもう一つある。金相場を押し上げた点だ。外貨準備に金が占める割合は限定的とはいえ、含み益が出た金を売却すれば米ドルの手持ちが増える。
フィリピンメディアの報道によれば、フィリピン中銀のジョクノ総裁は5日、外貨準備として保有している金を積極的に売却する考えを明らかにした。価格上昇によって外準に占める金の保有比率が高くなったため、望ましいとされる10%程度に抑えたいのだという。7月末時点で金の割合は12.8%で、6月までの8%台から急伸していた。
外貨準備の拡大はその国のプラス材料として市場参加者も強く意識している。シンガポール金融大手DBSグループ・ホールディングスは、6月以降のインドの株高について「外貨準備の継続的な上昇が寄与している」と指摘した。足元では米テスラ株の急落や原油安などによって市場には不穏な空気が漂っているものの、アジアでは「新興国懸念からインドネシアやインドの通貨が率先して売り込まれる可能性は低い」との声が多い。(NQNシンガポール 村田菜々子)
<金融用語>
外貨準備高とは
各国の通貨当局(日本の場合=日本銀行+外国為替資金特別会計)が保有する流動性の高い外貨建て資産(外国債券や外貨建定期預金など)の残高のこと。輸入代金の決済や対外債務の返済に充てるほか、外国為替相場の急激な変動を制御し、安定させるための為替介入に用いる。