近所にあるロサンゼルス市立図書館分室前に選挙の投票用紙を入れるボックスが設置された。通りかかったカップルが興味深そうに見ていた。「いよいよ選挙か」とつぶやいた。選挙が近いことを意識したようだ。選挙前には星条旗が増え、盛り上がる。
米国の選挙は伝統的に11月の第一火曜日に実施される。今年は11月3日だ。不在者投票を除き選挙当日に投票所に指定された施設で投票する。4年に1度の大統領選を含む今年の選挙は、新型コロナウイルスのパンデミック(疾病の大流行)の影響で特殊な形になる。ロサンゼルスでは選挙日の29日前までに登録した有権者に投票表紙が郵送され、選挙前に投票ボックスに入れる、もしくは選挙当日に投票所で投票する。
米CBCニュースの報道番組「フェイス・ネーション」によると、2004年の米選挙で不在者投票や郵便で投票した有権者は2490万人。前回の米大統領選があった2016年は5720万人が郵便などで投票した。今年は約8000万人が選挙日前投票もしくは郵便投票すると予想されている。コロナの影響で異例の多さだ。もっと異例なのは、選挙の勝敗への関心ではなく、自身の投票が集計に含まれるかを有権者が不安に感じていることだ。
リアルクリア・ポリティックスのまとめでは、27日時点で大統領選に関する各社世論差で民主党候補のバイデン氏がリードを維持している。平均7.0ポイントの差だ。縮小傾向にあったトランプ氏との差が再び開いた。米ワシントン・ポスト紙とABCニュースの最新調査では、バイデン氏の支持率がトランプ氏を10ポイント上回った。世論調査は一貫してバイデン氏が総得票数でトランプ氏を上回ることを強く示唆している。
金融市場は当初、バイデン氏の選挙当日の勝利宣言をメインシナリオにしてきたが、選挙結果が長期にわたり決まらないシナリオが意識されるようになった。トランプ氏が繰り返し、スムーズな政権移譲の明言を避けたからだ。「最高裁判所が判断することになる」と、郵便投票で不正があるとして選挙結果に異議を申し立てる可能性を示唆した。民主党支持者は郵便投票を好み、共和党支持者の過半数は投票所に行くとみられている。
米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は27日、大統領選の結果をめぐり異議が申し立てられる可能性に投資家が備えていると報じ、株式から通貨まで幅広い金融相場が11月に不安定になることを示唆した。S&P500種株価指数の予想変動率の指標であるVIXは年末までボラティティの高い展開が続き、2021年はじめに落ち着く可能性を示している、としている。英エコノミスト誌のチーフ・エコノミストのバプティスト氏は、1月の就任式前に大統領選の勝者が決まると予想するが、双方が勝利宣言を続ける場合は次の展開が不透明だとコメントした。
2000年の米大統領選ではフロリダ州の開票結果をめぐりゴア陣営が抗議して手作業での開票が始まった。ブッシュ陣営は手作業による再集計の中止を求める訴訟を連邦最高裁判所に起こした。法廷闘争が続き、選挙から35日後に最高裁の判断を受け総得票数で勝ったゴア氏が敗北を認めた。2000年の選挙日に1431ポイントだったS&P500は乱高下を繰り返し、ブッシュ勝利確定翌日に1340ポイントに下落した。
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Market Editors 松島 新(まつしま あらた)福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て2011年からマーケット・エディターズの編集長として米国ロサンゼルスを拠点に情報を発信