9月28日の外国為替市場でトルコリラが突如急落する場面があった。対円では1リラ=13円台後半から13円32~37銭程度まで一気に売り込まれ、過去最安値を更新した。週明け午前中のアジア・オセアニア市場は取引量が極めて少ない。そんな中、日本勢などから出たまとまった規模の売り注文によって「フラッシュクラッシュ」(瞬時の急落)が起きたようだ。
■リラ売りの理由
リラ売りの理由として市場参加者の多くが挙げるのはトルコの近隣諸国でにわかに生じた「地政学リスク」だ。旧ソ連のアルメニアとアゼルバイジャンが帰属を巡って対立する係争地ナゴルノカラバフでは27日、両国の軍が衝突。民間人を含む死傷者を出す事態になった。トルコはアゼルバイジャンと関係が深く、同国にすぐに支持を表明しており、紛争が長期化すれば影響は避けられない。
折しもトルコでは24日、中央銀行が市場の意表を付く形で2%の利上げに踏み切り、リラ相場も2%前後上げていた。その過程でリラの買い持ちを積みあげた投資家は少なくない。一方、トルコの懸案である低成長下でのインフレや経常赤字、外貨準備の枯渇といった問題点はすぐには解消しそうにない。このままリラの買い持ちを維持してよいものか――。疑心暗鬼が広がっていたタイミングでナゴルノカラバフの事件が伝わったわけだ。
リラ相場はここ数年、戻りらしい戻りもなく下がり続け、2018~19年には何度かフラッシュクラッシュを経験した。とりわけ19年8月26日、リラの対円相場が1リラ=18円台から16円台まで10%超も下げたのは記憶に新しい。このときも週明けの朝で、商いが極めて薄くなっていた時間帯だった。アジア市場でのリラ取引が利息収入を重視する日本の外為証拠金(FX)投資家に集中し、買い持ちに偏っていることもフラッシュクラッシュを誘発しやすくしている。
■先安観広がる
28日のリラ相場は急落後すぐに反発し、日本時間11時15分時点では対円で1リラ=13円70銭前後に戻した。市場では「損失覚悟を含む買い持ち高の解消は一巡した」との解説が聞かれる。ただ急落のショックは大きい。長い目で見たリラの先安観は再び広がっている。
リラは経済基盤が盤石とはいえない新興国の通貨の中でも特に悪材料が目立つ。インドネシアルピアやインドルピーといったかつての「ライバル」にも完全に後れをとっており、チャートなどのテクニカル分析では短期、中長期ともにリラの「ストロング・セル(強い売り推奨)」がずらりと並ぶ。「こうした状況ではプラスの材料が出てもなかなか疑念は消えない」(シンガポール在住の個人投資家)。リラの下落基調はまだ続きそうだ。(NQNシンガポール 編集委員 今 晶)