【日経QUICKニュース(NQN)松下隆介】外国為替市場でブラジルレアル相場が急伸している。資源価格の上昇や政府の財政政策を背景に、景気回復への期待が高まっている。新型コロナウイルスの感染拡大や政情不安など、売り材料が多いレアルは悲観視されがちだが、ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)は着実に回復基調をたどっている。足元の力強さを過小評価すべきではない。
■レアルが買い戻された
10月6日の東京市場でレアル相場は1レアル=18円90銭近辺と、前日17時時点と比べ30銭強上昇した。対ドルでもドル安・レアル高が進み、6日は1ドル=5.57レアル近辺で推移している。こうした動きは、5日から顕著になっている。新型コロナに感染したトランプ米大統領の症状が軽く、グローバルで運用リスクをとる動きが広がりレアルが買い戻された。
景況感の改善もレアル買いを促している。海外メディアによると、IHSマークイットが5日発表したブラジルのサービス業の購買担当者景気指数(PMI)は9月が50.4と、前月(49.5)から上昇した。好不況の判断の分かれ目となる50を上回ったのは2月以来で、世界でコロナ感染が深刻になる前の水準をほぼ回復した。1日発表の9月の製造業PMIは64.9と、2006年の調査開始以降で最高だった。
背景の一つは、経済的な結びつきが強い中国景気の回復だ。主要な生産品の鉄鉱石は中国の需要が旺盛で、価格も高止まりしている。もう一つは内需の持ち直し。政府は新型コロナの感染拡大で生活が困窮した国民を支えようと、緊急支援金を支給する「ばらまき政策」で内需を喚起している。米ゴールドマン・サックスによると、使用期間3年以内の中古車の販売台数は9月が前年同期比21%増と、17年8月以来の高い伸びだったようだ。
■「戻りは鈍いだろう」
ただ、先行きを不安視する声はなお根強い。ブラジルでは500万人近くが新型コロナに感染し、死者はおよそ15万人に達する。コロナ対策が万全でなく感染拡大に歯止めがかからず、景気回復の足かせになるとの警戒感はくすぶる。あおぞら銀行の諸我晃チーフ・マーケット・ストラテジストは「コロナ禍に加えて政情も不安定で、レアルの戻りは鈍いだろう」と指摘する。
とはいえ「ウィズコロナ」の環境下で、景気が着実に回復していることも確かだ。SMBC日興証券の平山広太シニアエコノミストは「経常収支も黒字基調にあり、猛烈な勢いで回復する足元の景気動向を踏まえればレアルは弱すぎる。米大統領選が終わり本格的な『リスクオン相場』に回帰すれば、1ドル=5レアル前後まで上昇するだろう」とみる。
何かとネガティブなニュースが多いブラジルだが、レアル反転の素地は整っている。思わぬ上昇に足をすくわれないよう、注意すべきタイミングだろう。
<金融用語>
購買担当者景気指数(PMI)とは
景気の方向性を示す経済指標で速報性の高さから金融市場で注目される。正式名称はPurchasing Managers’ Index(購買担当者景気指数)。 企業の購買担当者に新規受注や生産、雇用の状況などを聞き取り、景況感についてアンケート調査した結果を指数化したもの。50を判断の分かれ目としてこの水準を上回る状態が続くと景気拡大、逆に50を下回る状態が継続すると景気減速を示す。製造業と非製造業に分けて発表されるが、主に製造業の動向が着目される。 PMIは世界各国で集計・発表されている。近年では世界経済を左右する中国の結果が話題になることが多い。中国では中国国家統計局と中国物流購入連合会が共同で調査しているものと、中国のメディアグループである財新と英国の金融情報・調査会社のIHSマークイットが独自でまとめたものの2種類がある。