【日経QUICKニュース(NQN) 末藤加恵】外国為替市場でトルコの通貨リラの下落が止まらない。東地中海でのガス田探査を巡る対立で欧州連合(EU)との関係悪化が懸念されるなど、トルコは外交的に四面楚歌(そか)に追い込まれている。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う輸出の不振や外貨準備の急減もリラ売りにつながっている。市場では心理的節目の1ドル=8リラ突破は近いとの声があがる。
15日の外国為替市場でリラは7.92リラ台まで売られて最安値圏にある。昨年末からの下落率は25%を超えている。リラ安に拍車をかけているのが、海外との外交的な対立という地政学リスクの高まりだ。
■高まる緊張
南に広がる東地中海で、トルコはギリシャと権益を争うガス田で14日までに探査を再開した。9月下旬に予備協議の開催に合意したギリシャは反発し、EUがいったん見送ったトルコへの制裁論が再燃しそうな勢いだ。
トルコの北のコーカサス地方に位置するアゼルバイジャン領のナゴルノカラバフ地域で、トルコと関係の深いアゼルバイジャンと旧ソ連のアルメニアが紛争を続ける。14日にはロシアのプーチン大統領とトルコのエルドアン大統領が同地域の紛争について電話協議し、当事国が10日に合意した停戦合意の順守が重要との認識で一致したと伝わった。ただ、アゼルバイジャンとアルメニアは停戦合意後も攻撃し合っている。
■バイデンリスク
トルコのはるか東では、米大統領選で優位に立つ民主党候補のバイデン前副大統領が米メディアに対し「トルコ野党のリーダーの支持を明確にする」などと発言している。バイデン米大統領が誕生すれば、トルコの現政権に強硬姿勢をとりそうだ。「安全保障問題を理由に米国が制裁に動く可能性は否定できず、リラ急落もあり得る」(第一生命経済研究所の西浜徹主席エコノミスト)という。
リラ安が止まらぬトルコでは、22日に中央銀行が金融政策の決定会合を開く。9月下旬の前回会合ではインフレや資金流出に歯止めをかけるため、中銀は予想外の利上げに踏み切った。
2会合連続の利上げはあるか。「自らの柔軟性を高めるために22日の会合で利上げに動くと予想する」(バークレイズ)との声がある一方、トルコのエルドアン大統領は、中銀に対し景気刺激のために金融緩和をするように圧力をかけ続けている。「連続利上げは難しいとの声も多く、予想は割れている」(第一生命経済研の西浜氏)のが現状だ。
介入の原資となる外貨準備高は減少の一途をたどり、通貨防衛の打つ手は限られている。SMBC信託銀行プレスティアの二宮圭子シニアFXマーケットアナリストは「内憂外患のトルコリラに買い材料は見当たらず、来週にも8リラ台へ下落する可能性が高い」とみる。下値メドが立たない状況が続いている。