【日経QUICKニュース(NQN) 山田周吾】ユーロ相場が底堅さを増している。新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからず、欧州各国では規制強化の動きが広がる。景気の先行きに暗雲が垂れこめ、欧州中央銀行(ECB)による追加の金融緩和観測がくすぶるが売りの勢いは鈍い。ユーロが円やドルに対して下値を模索する展開とならない背景には、人気が過熱している欧州連合(EU)発行の「共同債」への資金流入期待があるようだ。
■コロナ再拡大でも堅調
26日の東京外国為替市場ではユーロが対ドルで一時1ユーロ=1.1850ドル台に上昇。対円では1ユーロ=124円19銭前後と、前週末17時時点と比べて37銭の円安・ユーロ高水準を付ける場面があった。欧州での新型コロナの1日あたりの新規感染者は「第1波」とされた春先を大きく上回り、スペインは25日に再び非常事態を宣言。イタリアでも18時以降の飲食店営業の禁止を決めたが、ユーロは円やドルに対して9月下旬を底に戻り歩調を保つ。
■底堅いワケ
なぜユーロは底堅いのか。理由の1つに挙げられるのは、EU債の発行に伴うユーロ買い需要の高まりだ。欧州委員会は21日、雇用を保護するために170億ユーロ(約2兆1000億円)の共同債を発行したと発表。初めてソーシャルボンド(社会貢献債)として発行し、発行額を優に上回る2330億ユーロの需要が集まったという。
今回、欧州委が共同債を発行したのは失業リスク緩和のための緊急支援策(SURE)の財源とするためだ。SUREはコロナ禍で加盟国が雇用を守るのを援助することが目的で、来年にかけて最大1000億ユーロを調達する予定だ。
今回のEU共同債で発行額の一定数は公的機関が購入したとみられる。域外の投資家がユーロ建ての債券に投資する場合、為替リスクをヘッジ(回避)することは多い。例えば、日本の投資家がユーロ建て債の購入にあたって円買いの先物予約で為替ヘッジすれば、ユーロ圏の短期金利が日本を下回っていることで3カ月物で0.3%程度の上乗せ金利が得られるなどメリットが大きい。
■EU債は右肩上がりで・・・
為替ヘッジ付きの投資ならばユーロ相場の影響は限られるが、投資主体が公的機関となれば話は変わる。外貨準備として様々な通貨を持つ中央銀行や保有する通貨のリスクを分散させたい公的年金などは為替ヘッジを付けないことも多い。あおぞら銀行の諸我晃チーフ・マーケット・ストラテジストは「EU債は発行が巨額なだけに、一部の投資家がヘッジなしで購入した際に生じるユーロ買い需要は無視できない」と話す。
今後はEU債の発行が右肩上がりで増える公算は大きい。EUはSURE以外でも、21年からは7500億ユーロ規模の復興基金の財源を共同債の発行で賄う方針だ。うち3割をグリーンボンド(環境債)として発行する予定で、需要が過熱した今回のEU債と同じくESG(環境・社会・統治)のラベルも付く。ESGを重視する投資家は年々増えており、復興基金の財源をまなかう共同債にも投資家からの需要が殺到すれば、ユーロ相場の強力な支援材料として意識されるだろう。