2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする――。菅義偉首相が所信表明演説で宣言し、国を挙げて環境対策に取り組む姿勢を鮮明にした。
脱炭素社会の実現には、設備投資など先行して資金が必要となる。資金集めの手段の1つとして存在感が高まっているのが環境に配慮した事業に資金使途を絞る「グリーンボンド(環境債)」だ。起債の動きがここ数年で急増している。
今年はグリーンボンドを初めて発行する企業も多く、その波は地方自治体にも広がり始めた。今回の「Go To ESG」は、地方自治体のグリーンボンドについて取り上げる。
■長野県が初のグリーンボンド
長野県は今年10月、機関投資家向けに初めてグリーンボンドを発行した。調達した資金は小水力発電所の設置や第三セクター「しなの鉄道」の車両更新、水害対策のための河川改修工事などに充てる予定だ。
長野県によると、今回発行した50億円のグリーンボンド(期間10年で利率は年0.140%)は募集した即日に完売。「投資表明をした30件のうち21件は県内の投資家で、10年債を定期的に購入していない地方自治体や事業法人からも投資いただいた」(長野県財政課)と言う。
■東京都が先行 個人向けも
自治体では東京都が先行している。環境省出身の小池百合子都知事が主導し、2017年から毎年グリーンボンドを発行している。長野県は東京都に続く2例目で、11月上旬には神奈川県も初めてグリーンボンドを発行した。
東京都は個人向けのグリーンボンドも募集している。期間が5年の米ドルまたは豪ドルの外貨建てで、2017年から毎年発行している。過去3回の発行では、売り出し初日に発行予定額が売り切れる人気ぶりだった。今年は12月に発行予定で、東京都財務局はPR動画などで情報発信に努めている。
■地元の投資家が支持
長野県が今回発行したグリーンボンドは、環境省の地域環境保全対策費補助金の対象となった第1号案件でもある。グリーンボンドを発行する際に必要な第三者機関の評価に関係する費用などを政府が補助するもので、グリーンボンド発行時のコスト削減につながる。
「長野県がグリーンボンドを発行した意義は大きい」とみずほ証券の香月康伸氏は指摘する。地方自治体のグリーンボンド発行に風穴を開けただけでなく、起債の背景に共感した地元の投資家からの支持が多いのは、他にない特徴だと言う。
長野県はグリーンボンドを「来年度以降も継続的に発行していく予定」(財政課)としている。今回の資金使途の対象となる事業の成果も今後わかりやすい情報開示をしていくという。
■CO2排出量を実質ゼロに
長野県は地球温暖化の防止策や異常気象による災害対策に取り組むため、昨年12月に都道府県で初めて「気候非常事態宣言」を表明した。同時に2050年の二酸化炭素(CO2)排出量を実質ゼロにする目標も掲げている。
環境省によるとCO2排出量の実質ゼロを目指すことを宣言する自治体は171にのぼる。地方自治体は自然災害時などのレジリエンス(回復力)の強化も求められている。地方自治体の資金需要と環境対策への意識に投資家が共感することで、グリーンボンドの発行は地方に広がっていきそうだ。今後は金利の高い他の債券にはない魅力の発信や資金の使い道に関するきめ細かな情報開示など、投資家の意欲を持続させる取り組みが必要となる。
※(Go To ESG)ではESG投資に関連した話題を原則月1回配信します