【日経QUICKニュース(NQN) 藤田心】外国為替市場で南アフリカの通貨ランドが堅調だ。対円、対ドル相場はともに8カ月ぶりの高値圏にある。新型コロナウイルスのワクチン開発期待が高まり投資家心理が改善し、リスク選好時に買われやすいランドの相場を押し上げている。ただ、世界経済の先行きに加え、今週に控える南アフリカ準備銀行(中央銀行)の政策金利発表や大手格付け会社の格付け判断を見極めたいとするムードが強まり、上昇には一服感もみられる。
■徐々に上値の重さが…
ランドは11月10日に対円で一時、1ランド=6.8円台と3月上旬以来の高値を付けた。対ドルでも9日に1ドル=15.1ランド台後半と2月下旬以来の高値を付けるなどランド買いが進んだ。同日は米ファイザーなどが開発する新型コロナのワクチンが高い有効性を示すと伝わった。市場では、「リスクオン(選好)ムードが新興国通貨であるランドの追い風になった」との解説が目立つ。
現状は欧米など世界各地で新型コロナの感染拡大が続いている。17日には10月の米小売売上高が市場予想に届かず、リスク選好姿勢に水を差す形となった。ランド相場は9日以降も高値圏での推移が続いているが、徐々に上値の重さが意識されている。
■「上値追いには注意」
週内に南アフリカを巡り2つのイベントが控えている。1つは19日の南ア中銀の金融政策発表だ。9月の前回会合では政策金利をそれまでの3.50%で据え置いた。今回会合でも据え置きを見込む声が多いが、足元のインフレ率の鈍化を受け、一部では利下げに踏み切るとの見方もある。
中銀会合後の週末には米S&Pグローバル・レーティングや米ムーディーズ・インベスターズ・サービスなどによる同国国債の格付け発表が予定されている。4~6月期の同国の実質成長率は前期比マイナス51%と大きく悪化。ムボウェニ財務相が10月下旬に発表した中期の財政計画では、23年度予算まで大幅な赤字が続くとの見通しを示した。「財政赤字は格付けにネガティブで、格下げとなればランド売りにつながりかねない」(マネースクエアの八代和也氏)。既に格付け各社は同国の債務格付けを投資不適格級に引き下げている。
財政再建のため、ムボウェニ氏は公務員の昇給を2021年度からの3年間、凍結する考えを示している。野村証券の春井真也氏は「労働組合が与党の支持基盤である以上、協議は難航が予想される」とみる。国営企業の経営再建問題に加え、新型コロナへの対応もあって財政の持続可能性に対する懸念材料は多い。市場ではファンダメンダルズ(基礎的条件)と乖離(かいり)したランド高に対し「上値追いには注意が必要」(春井氏)との声も出ている。
<金融用語>
格付けとは
格付けとは、国や企業の発行する債券の信用力や元利金の支払い能力の安全性などを総合的に分析しランク付けしたもので、アルファベットなど分かりやすい記号で示される。 格付けは民間の格付け会社によって行われ、投資をする際、信用リスクを測る重要な指標のひとつとなる。ただし、格付け会社によって格付けに差があったり、経済状況に応じて格付けが見直されたりする場合もある。 個別の債券やその発行体の債務全体に対する評価に加え、金融機関に対する預金や保険金の支払い能力の格付け、ストラクチャードファイナンス商品(仕組債など)や投資信託についての格付けも行っている。