【日経QUICKニュース(NQN) 末藤加恵】イスラエルの通貨シェケルが12年ぶりの高値圏にある。新型コロナウイルスのワクチン開発の進展期待をきっかけに投資家がリスク選好の動きを強め、ドル安が加速するなかで新興国通貨のシェケルにマネーが向かっている。足元でシェケルの商いは増えている。景気が復調している「スタートアップ大国」のイスラエルが資金の振り向け先の1つに選ばれているようだ。
■あふれたマネーの行き場
足元の対ドルのシェケル相場は連日で年初来高値を更新している。前週末12月4日の外国為替市場でシェケル相場は1ドル=3.2シェケル台前半まで上昇し、2008年以来およそ12年ぶりの高値を付けた。7日の外為市場でも3.2シェケル台半ば近辺と、12年ぶりの高値圏での推移が続いている。
世界的な株高で運用リスクをとる「リスクオン」に傾いた投資家は、低金利で調達したドルを元手に積極的に運用する姿勢を強めている。コロナショック後に進んだ米連邦準備理事会(FRB)など主要中銀による緩和競争はさまざまなリスク資産の価格を押し上げた。あふれたマネーが行き場を求めて向かった先の1つがイスラエル通貨のシェケルだ。
米ゴールドマン・サックスによれば、11月30日の対ドルのシェケルの取引量は急増し、直近1カ月間の1日平均を大きく上回ったという。円・ドルやユーロ・ドルの取引量は平均並みで、オーストラリア(豪)ドル・米ドルが平均を下回るなか、シェケルの取引量の急増ぶりが際立つ。
■他の新興国より力強い景気回復
世界経済や政策動向を先読みして取引するグローバルマクロ戦略のヘッジファンドをはじめ、一部の機関投資家がシェケルに触手を伸ばしている背景の1つにイスラエル経済の堅調さがある。イスラエル中央統計局が11月16日に発表した7~9月期の国内総生産(GDP、季節調整済み)速報値は前期比年率で37.9%増。新型コロナの影響で29.8%減となった4~6月期の落ち込みから急速に持ち直した格好だ。
イスラエルは技術開発型のスタートアップ大国として知られ、世界的なハイテク需要の拡大をけん引役に輸出や個人消費、投資が急回復した。英バークレイズ銀行のラムスレン・シャラブデムベレル氏は「ほかの新興国と比べてイスラエルの景気回復は相対的に力強い」と分析する。
イスラエルにとっては、今夏以降にアラブ首長国連邦(UAE)やバーレーン、スーダンと国交正常化で合意したことも追い風だ。とくにUAEとの間では投資や航空、科学技術の分野で協力協定が締結され、新たな成長の芽が生まれつつある。フィデリティ投信の重見吉徳氏は「経常黒字国で相対的に債務が少なく、通貨の価値が安定しやすい『デフレ通貨』であることも、マネーの逃避先として買いを集めた」と話す。
もちろんシェケル高の根底にはドルの先安観があり「コロナワクチンが普及して米景気が本格回復すれば、いずれはドルが反転し、シェケル相場も調整しそう」(バークレイズのシャラブデムベレル氏)との声もある。イランの著名な核科学者モフセン・ファクリザデ氏が11月末に殺害された事件でイスラエルの関与が指摘され、両国関係の緊迫化は地政学リスクの高まりにつながりかねない。ただ、新型コロナの影響で景気回復の足どりが鈍い新興国が多いだけに、復調が鮮明なイスラエルのシェケルはしばらく投資家の関心を集めそうだ。