【NQNロンドン 椎名遥香】欧州中央銀行(ECB)は12月10日、政策理事会を開いて追加金融緩和を決めた。決定の内容はおおむね市場の予想通りだった。なんらかのけん制があるのではないかとみられていたユーロ高を巡っては、会見したラガルド総裁から目新しい発言はなかった。このため、発表後にユーロは買われ、ドイツ長期金利は上昇(債券価格は下落)した。
■狙いは「良好な金融状況を維持」
追加緩和の主な内容としては、コロナ危機への対応として3月に新設した資産購入枠「パンデミック緊急購入プログラム(PEPP)」を現状の1兆3500億ユーロ(170兆円)から1兆8500億ユーロへと5000億ユーロ増やし、購入期限を2021年6月末から22年3月末に延長する。市中銀行に超低金利で長期資金を貸し出す制度(TLTRO)も、期限を22年6月末まで1年延長する。政策金利は現状の水準を維持する。
同時に公表した経済見通しでは、21年のユーロ圏の実質成長率を9月時点の5.0%から3.9%に引き下げた。インフレ見通しは、21年は1.0%で据え置き、22年は1.1%と1.3%から下方修正した。
新型コロナワクチンの普及や経済正常化には時間がかかり、不確実性も高い。その間の景気を支えるため「良好な金融状況を維持する」ことが今回の追加緩和の狙いだとラガルド総裁は繰り返した。想定より早く経済が回復すればPEPPの枠を全て使う必要は無くなるし、反対に良好な金融状況を保つために必要となれば購入枠を再調整すると述べた。
ユーロについてラガルド総裁は「物価見通しに影響するため為替動向を引き続き注視する」と従来のコメントを繰り返した。ユーロ高をけん制するための踏み込んだ発言はなく、ユーロの対ドル相場は一時1.2158ドル近辺と前日比0.6%上昇した。
■独国債利回りは低迷?
ドイツ長期金利は前日比0.03%近く高いマイナス0.57%台後半まで上昇する場面があった。ECB高官の発言などを手掛かりに追加緩和観測が広がり、足元で独金利は低下傾向にあった。緩和策は市場予想にほぼ沿った内容で、目先の材料は出尽くしたとの見方から売りが優勢となった。
ただ、独国債利回りは長期に渡って低迷が続くとの見方が多い。インフレ見通しは22年時点もECBが目標とする2%近くを大きく下回る見通しのため、コメルツ銀行のイェルク・クレーマー氏は、PEPPが終了した後は「ECBは通常の量的緩和策での月々の購入額を増やす」と予想していた。