2020年の株式市場は、新型コロナウイルスの感染第1波が中国から欧米に急拡大した2~3月に大幅に下落したが、その後は、同ウイルス感染拡大の第2波、そして現在の第3波とコロナ禍の先行きに不透明感が拭えないながらも、世界各国による大規模な金融緩和などにより回復基調となっている。特に、米国株式市場は、コロナ禍によるステイホームの奨励、在宅勤務の本格導入により様々なサービスのデジタル・トランスフォーメーション(DX)が進み、その恩恵を受ける企業が多く存在していることから、年末にかけて史上最高値を更新している。
米国株式市場の時価総額上位10社を分析してみると、ここ数年の常連であるGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)は、今回のDX推進の流れも追い風となっている。DXの流れでいえば、マイクロソフトも含まれるであろう。テスラも自動車業界では積極的にDXに取り組んでいる企業であるが、温室効果ガスの排出量を実質的にゼロ(ネットゼロ)にする脱炭素社会の世界的な流れが大きく寄与したと思われる。一方、ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)、バークシャー・ハザウェイ、ウォルマート、ビザなど各業界のリーディング企業が入った。
■米国を代表する企業のESGスコアは?
これら米国を代表する企業のESG(環境・社会・企業統治)の状況はどうであろうか。アラベスクS―Rayのスコアから分析してみたい。
アラベスクS―RayのESGスコアは、業種毎に重要なESG項目の比重を調整している。ESG項目の中で比重の高い項目は企業価値との相関が高く、比重が低い項目は企業価値との相関が低い。そのため、ESGと企業価値との関係を示すスコアである。GCスコアは国連グローバルコンパクトの4つの主要原則(人権、労働、環境、腐敗防止)に基づいて企業行動を評価するスコアである。このスコアが高い企業は企業行動に優れていると考えられる。つまり、企業行動のリスクを示すスコアである。
表1は2020年1月1日のスコアと12月23日のスコアおよび両日間のスコア差を示した表である。まず、直近12月23日のESGスコアをみると、アルファベット(=グーグル)とテスラは50を下回り、その他8社は50を上回っている。これら8社は、その業種の中でも企業価値の増加に重要なESG項目に注力していると考えられる。
一方、GCスコアであるが、アップル、アマゾン、アルファベット、テスラ、バークシャー・ハザウェイ、ウォルマートの6社が50を下回っている。企業行動において将来的にリスクが高いと考えられる。アルファベットとテスラはいずれのスコアも50を下回っているので、上位10社の中では、企業行動における将来的リスクが高く、ESGの取り組みが企業価値に結びつかない傾向があると考えられる。しかし、テスラは両スコアともに年初来で上昇しているのがわかる。
■ESGへの意識向上みられるテスラ、全スコアで上昇
アルファベットとテスラの2社のESGの状況をもう少し詳しくみていきたい。両社のESGスコア、GCスコアのサブスコアを比較したのが表2、表3である。
表2はESGスコアのサブスコアである環境、社会、ガバナンスで、表3はGCスコアのサブスコアである人権、労働、環境、腐敗防止のスコアだ。アルファベットはESGスコアではガバナンス、GCスコアでは人権と腐敗防止のサブスコアが下落している。欧米での独占禁止法に関する訴訟問題が影響しているのであろう。
一方、テスラは全てのサブスコアで年初来で上昇している。企業価値の増加に伴い、テスラのESGに対する意識は向上していると考えられる。現時点のスコアそのものは50を下回っているが、今年の上昇のペースが続けば、2021年には50を上回るのではないか。
米国の時価総額上位10社は世界経済にも大きく影響を及ぼしている。2021年も注目していきたい。(アラベスクS-Ray社日本支店代表 雨宮寛)
雨宮 寛(あめみや・ひろし)
アラベスクS-Ray社日本支店代表。アラベスク・グループの日本事業の責任者。アラベスク以前は外資系金融機関で運用商品の開発に従事。CFA協会認定証券アナリスト。一般社団法人日本民間公益活動連携機構アドバイザー、明治大学公共政策大学院兼任講師。NPO法人ハンズオン東京副代表理事。ハーバード大学ケネディ行政大学院(MPA)、コロンビア大学経営大学院(MBA)。