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投資家に数兆ドルの投資機会もたらす「ネガティブエミッション技術」(レスポンシブル・インベスター)

※レスポンシブル・インベスターのロゴ

責任投資原則(PRI)は最新のレポートにおいて、大気中の二酸化炭素を吸収する「ネガティブエミッション技術(NETs)」は投資家に数兆ドル規模の新たな投資機会をもたらす可能性があると発表した。排出量ネットゼロの野心的目標を掲げる国や都市、企業が増えているからだ。

PRIのレポート「An Investor Guide To Negative Emission Technologies And The Importance Of Land Use」は、植物体や土壌に蓄積された二酸化炭素を活用する新たな産業が生まれ、森林破壊の阻止、森林再生、植林および土地修復に向けた新たなビジネスモデルや投資機会への道を開くと指摘している。また、自然を基盤とした解決策(NBS:Natural Based Solution)を講じることで、2050年までに年間8,000億ドルの市場規模にのぼることも可能としている、これは、現時点の時価総額で1兆2,000億ドルに相当し、石油・ガスのメジャー企業の時価総額を上回る。

PRIのフィオナ・レイノルズCEOは、「ネットゼロ目標を達成するためには、NBSの採用が不可欠である。パンデミックを機に、特に森林への投資が過熱しており、今回の分析結果はその投資機会の大きさを示すものである」と述べている。これまで、排出量の削減において土地利用の果たす役割は見落とされており、エネルギーばかりに焦点を当てた気候変動シナリオでは見過ごされがちだった。だがパンデミックを機に排出量ネットゼロ目標を掲げる動きが広まり、その達成に向けた資本投入を促す圧力が強まっている。その結果、NBS関連のカーボンクレジットに対するニーズも高まっている。2017年から2018年にかけて、自主的なカーボンオフセット市場で取引された森林・土地利用関連のクレジットの総額は3倍増の1億7,200万ドルに達した。

レイノルズ氏はさらに、「森林が新たなアセットクラスとして認められる分岐点に到達した背景には、関連する政策やビジネスの勢いがある。投資家は今こそ投資機会を開拓し、資金調達における主導的な役割を強化する時だ」ともコメントしている。

今回のレポートは、投資家がこうした機会を活用するための手段として新たに複数の資金調達メカニズムを提言しており、中でもディストレスト資産の活用を促している。それは、投資家が森林破壊または森林減少が発生している公有/私有地を買い取って修復し、修復後の土地が生み出すカーボンストックから利益を確保した上で、その後土地の保全を条件に他の投資家または政府に売却するしくみである。ほかにも、スチュワードシップモデル、カーボン・ファーミング契約、持続可能な農業、グリーンボンド、森林保険の提供、カーボン・オフテイカーへの保証といったしくみも提案している。

投資家が考慮すべき要素として、植林のほかに森林破壊の阻止が挙げられる。

報告書は、森林破壊の計測、報告および保証メカニズムと補償制度が十分に確立すれば、この分野も新たな投資機会になるとしている。

さらに投資家が政策立案者や企業に気候変動対策に取り組むよう働きかけ、NBSへの投資を進め、森林破壊の無いサプライチェーンを構築することで、森林関連市場の制度的な発展をサポートする機会も広がるだろう。

 一方でレポートは、その進展を阻みかねない障壁として複数の要因に言及している。第1に、森林破壊を撲滅する強固な法施行または規制強化が実現しなければ、評判リスクを警戒する投資家の意欲がそがれかねないことだ。また、今回の調査を支援したVivid Economicsのトーマス・カンジー(Thomas Kansy)氏は、「自主的なカーボンクレジット市場はいまだ冒険的な段階にあり、市場全体にやや不確実性が残っている」と説明している。それでも、マーク・カーニー氏が立ち上げた「自主的カーボンクレジット市場の拡大に係るタスクフォース」(Taskforce on Scaling Voluntary Carbon Markets)は資本市場におけるツール不足を解決する要素の1つであると指摘している。

最後に、報告書は「炭素直接空気回収・貯留(DACCS: Direct Air Carbon Capture, Use and Storage)」や「CCS付きバイオマス発電(BECCS: Bioenergy with CCS)」といった技術によって2050年までに新たに年間6,250億ドル相当の利益創出が可能であると強調しているが、バイオエネルギーへの過度な依存は地球環境、生態系の多様性、食料安全保障に打撃を与えかねないと警告している。

本レポートはPRIが昨年発表した気候変動に関するシナリオ「避けられない政策対応(IPR: Inevitable Policy Response programme」の一環であり、金融市場が短・中期的に直面する気候関連の政策リスクに備えられるようにすることを目的としている。カンジー氏はIPRについて、「気候変動シナリオのうち土地利用について考慮した数少ないものの1つであり、他の多くのシナリオはパリ協定または1.5℃シナリオへの準拠を謳ってはいるが、ネガティブエミッション技術(NETs)が相次いで投入されることを想定したものだ。そうした技術は不確実性が高いため、その大部分は基本的に『多くのCCS付きバイオマス発電』と説明している。だが、土地利用には他にも制約があるだけに、これらのシナリオが想定しているレベルは持続不可能と考えられる」と述べている。

だが、RIが国際エネルギー機関(IEA)による最新の長期的な気候関連シナリオの発表を報じた際、IPRの問題点が浮かび上がった。Federated HermesのInternational Policy and Advocacy部門を率いるイングリッド・ホルムズ(Ingrid Holmes)氏はRIの取材に応じてPRIのIPRと気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が示したシナリオに言及し、「現在考えられる代替シナリオのいくつかは評価できるが、トップダウンもしくはボトムアップの視点に基づく投資リスク評価にそれらを組み入れる実践的な方法はない」と述べている。

これとは別に、PRIは2021年から2024年までのストラテジック・アクションプランを発表した。2020年11月25日までシグナトリー・コンサルテーションを実施している現行案は、金融リスクと実世界へのインパクトを結びつけることに主眼を置いている。同案では注力分野として、投資家による実世界へのインパクト実現の支援(SDGsとも整合)、投資家/企業/政府が取り組む排出量ネットゼロ目標の達成、社会的な課題の提起(既にPRIは機関投資家向けに人権に関する投資行動フレームワークを発表)など8つを挙げている。

ネガティブエミッション技術の調査をさらに前進させるべく、Vivid Economicsは来年初めに作成するIPR改訂版のための追加調査に、予想される新たな政策や目標、新型コロナウイルスの感染状況を盛り込む計画である。

カンジー氏は、「重要なのは、こうした動きを促す役割を投資家がいかに果たしていくかという点である。現時点でこの市場の定義は明確化しておらず、やや混乱状態にある。それゆえ、投資家は重要な役割を担うことを求められている。現在、この分野のサプライチェーンには多くの人が関与しているが、その発展のために本当に必要なのは資金を提供できる人々なのである」と指摘する。

※本稿は、レスポンシブル・インベスター(Responsible Investor)の掲載記事をQUICK ESG研究所が翻訳、編集したものです。同社は、ロンドンに拠点を置く、世界の機関投資家に向けた責任投資、ESG、サステナブル・ファイナンスを専門的に取り扱うニュースメディアです。

<金融用語>

PRIとは

PRI(Principles for Responsible Investment: 責任投資原則)は、2006年発足当時の国連事務総長であるコフィー・アナン氏が、世界の金融業界に向けて提唱したイニシアチブ。機関投資家が、投資の意思決定プロセスや株主行動において、ESG課題(環境、社会、企業統治)を考慮することを中心とした6原則とその前文から成るもので、2006年に国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP FI)と国連グローバル・コンパクト(UNGC)が策定した。世界のアセットオーナー(Asset Owners)、運用機関(Investment Managers)、およびサービスプロバイダー(Professional Service Providers)にこの原則に対する署名を呼びかけ、2017年6月30日現在、アセットオーナー349、運用機関1,180、サービスプロバイダー224、総計1,753の機関(うち、日本は59機関)が参加している。 署名機関は専用のウェブサイトで様々な研究やキャンペーン、協働エンゲージメントなどの情報を利用することができ、より効果的、効率的な投資判断や行動ができる。署名機関には新規署名より1年経過後からレポーティングの義務が発生し、レポートはアセスメントによって評価を受ける。 日本の大きな動きとしては、安倍首相が2015年9月27日「持続可能な開発のための2030アジェンダ」を採択する国連サミットの演説の中で、世界最大の年金積立金を運用する日本のGPIFが、このPRIに署名し持続可能な開発の実現に貢献することを表明した。この前後から日本でもアセットオーナーの署名が増加し、国内の責任投資推進のきっかけの一つとなった。(QUICK ESG研究所)


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