気候変動イニシアチブであるClimate Action 100+ (クライメート・アクション100プラス、CA 100+)が、昨年に続き2度目の進捗レポートである「2020Progress Report」を公表した。レポートでは、エンゲージメント対象企業167社の約半数(43%)が「2050年までに温室効果ガス排出ネットゼロを達成する」と公約している一方、「スコープ3排出量をカバーしたネットゼロエミッション(実質排出ゼロ)の達成」を目標として掲げる企業は10%に過ぎないことを明らかにした。
スコープ3は、製品の使用や廃棄など、スコープ1、2以外のその他間接排出を指し、ほとんどの企業にとって、その温室効果ガス排出量に占めるスコープ3の割合は大きい。
レポートでは石油・ガス関連企業について、既に承認した25社194の探鉱プロジェクト、また計画中のプロジェクトのうち68%の設備投資が国際エネルギー機関(IEA)の2℃未満シナリオ(B2DS)に沿っていないことも明らかとなった。
企業がネットゼロ目標に対する具体的な対策を始めるなか、石油・ガス関連のような排出量の多い企業の脱炭素移行計画における設備投資は、2021年、投資家の議論の焦点になるであろう。
CA100+は2020年12月17日、エンゲージメント対象7社を含む欧州の石油・ガス関連8社による「6つのエネルギー移行原則」の公表を歓迎している。「大手エネルギー企業が一丸となって取り組み、より幅広いステークホルダーとの連携のためのプラットフォーム」と称する本原則は、スコープ3排出についても言及している。
CA 100+のグローバル運営委員会メンバー兼、欧州の機関投資家団体であるIIGCCのCEOであるステファニー・フェイファー(Stephanie Pfeifer)氏は、ネットゼロに向けた計画を未だ掲げていない企業に対し、「投資家による積極的なエンゲージメントが新たな規範となるなか、(目標策定に対する)圧力が更に高まるだろう」と警告を鳴らした。
CA 100+がエンゲージメント対象とする企業には、世界の温室効果ガス排出量上位100社に加え、60社を超える「ネットゼロエミッションへの移行を加速させるために不可欠」と考えられる企業が含まれている。
5年間の活動期間の3年目を迎えたCA100+には、現在545の機関投資家が署名しており、その運用資産総額は52兆米ドルを超えている。2021年初旬には、最近発表した「ネットゼロ企業ベンチマーク(公表情報に基づきエンゲージメント対象企業を評価する枠組み)」に対する企業の進捗状況を報告予定である。
CalPERSのマネージング・インベストメント・ディレクターであり、CA100+グローバル運営委員会メンバーのアン・シンプソン(Anne Simpson)氏は、「私たちはまだ、高い山の麓にいる。世界の中でも排出量の多い企業への対応は野心的かつ必要なことである。CA 100+の進捗レポートは、2050年までにネットゼロへの移行を推進するために達成できることと、これからすべきことを提示している」と述べる。
PRIのCEOであり、CA 100+運営委員会の副議長であるフィオナ・レイノルド(Fiona Reynolds)氏は、「CA 100+の署名機関は、エンゲージメント活動に気候変動課題に対する企業の行動変容を促がす力があることを実証した」と述べ、「2021年はネットゼロ企業ベンチマークを活用した取組みを拡大し、企業の進捗状況の評価と共に、取り組みの進んでいる企業と遅れている企業を明らかにする予定である」と付け加えた。
※本稿は、レスポンシブル・インベスター(Responsible Investor)の掲載記事をQUICK ESG研究所が翻訳、編集したものです。同社は、ロンドンに拠点を置く、世界の機関投資家に向けた責任投資、ESG、サステナブル・ファイナンスを専門的に取り扱うニュースメディアです。
<金融用語>
エンゲージメントとは
エンゲージメントとは、「約束」、「取り決め」といった意味を持つ言葉であるが、ここでは機関投資家が企業に対して行う「建設的な目的をもった対話」のことを指す。投資家が、短期的なリターンを追い求めるのではなく、中長期的な視点で企業に働きかけることで、当該企業の持続的な成長と企業価値向上を促すことを目的とする。エンゲージメントの手段は、手紙、直接面談、役員との面談など。株主提案、議決権行使を含む場合もある。投資家はエンゲージメントに際し、企業の経営戦略や事業計画を調査しておく。そのうえで企業に考えを伝え、対話をすることによってスチュワードシップ活動の責任を果たす。 一対一で行うエンゲージメントだけではなく、複数の投資家が協力して行う場合もある(協働エンゲージメント)。(QUICK ESG研究所)
スコープ3までの「ネットゼロ」目標はわずか10%なんですね。ということは、ネットゼロを目標にする企業が今後、益々増えるのですかね?