【日経QUICKニュース(NQN) 山田周吾】ブラジルの通貨レアルの弱さは2021年も顕著だ。20年に対ドルで最も下落した主要通貨はレアルだった。20年末は、商品市況の回復とともに資源国通貨のレアルはやや持ち直していたが、足元では再び軟調に転じている。支援材料はブラジル中央銀行が利上げに前向きともみられる動きをみせていることだが、新型コロナウイルスの変異種の流行など懸念材料は多い。
■レアルの弱さ際立つ
1月26日の東京外国為替市場でレアルは対ドルで1ドル=5.5レアル近辺で推移している。14日には今年に入ってからの高値となる5.2レアル近辺まで上昇したが、その後、約5%下落している。
※ブラジルレアルとロシアルーブルの対米ドルレート。(2020年始を100として指数化)
20年はレアルの下落基調が鮮明だった。20年は、年初に1ドル=4.0レアル付近だったレアル相場は、コロナ禍では5.5レアルを挟む水準で推移した。新型コロナの感染拡大で財政赤字が膨らむとしてレアル売りが加速。「日経通貨インデックス」を構成する25通貨の20年の対ドル相場の変化率を比べると、レアルはマイナス27%と25通貨のなかで最も下落した。2番目に下落したロシアルーブル(マイナス20%)と比べても、レアルの弱さが際立った。
■早期利上げは難しい?
ブラジル中銀は1月20日、早期の利上げを意識させる動きをみせた。「インフレ期待がインフレ目標に近づかない限り、金融刺激の縮小をしない」とのフォワードガイダンス(政策指針)を撤回した。2020年12月時点の物価上昇率は年率4.52%と、中銀のインフレ目標を上回っており、野村証券の中島将行氏は「インフレ抑制のために必要があれば利上げできるように柔軟性を高めた」とみる。次回3月会合の利上げを見込む市場関係者も出始めているようだ。
ただ、ブラジル中銀の早期利上げは難しいとの見方は多い。累計死者数が21万人を超すなど、ブラジルでの新型コロナ感染拡大には歯止めがかからず、政府が新型コロナ対策として実施していた低所得者層向けの現金給付も20年12月で打ち切ったことで、景気悪化の懸念が強いためだ。
■「利上げ局面は年後半になるだろう」
ブラジル中銀は20年12月に公表したリポートで、国内総生産(GDP)成長率の見通しを20年がマイナス4.4%、21年はプラス3.8%とし、今年の回復を見込んでいる。ただ市場では「21年1~3月期の実質GDP成長率が再びマイナスに転じる可能性は否めない」(SMBC日興証券の平山広太氏)との懸念も広がっている。中銀としては景気懸念と物価高の板挟みとなる中、野村証券の中島氏は「利上げ局面は年後半になるだろう」と予想する。
変異種を含めた新型コロナの感染拡大はレアルの重荷だ。1月上旬にブラジル由来の新たな変異種が発見され、感染力が強いとされる変異種への警戒感は高まっている。ワクチン接種もなかなか広がらない。英オックスフォード大学の研究者などがまとめた統計「アワー・ワールド・イン・データ」によると、100人あたりの接種率は0.33人(25日時点)と欧米圏に比べ後れを取る。新型コロナの影響で延期されたリオのカーニバル(謝肉祭)の7月開催についても中止が濃厚だ。
21年に入って、ボルソナロ大統領の支持率が急落するなど、ブラジルでの政情不安を意識させる不安材料も多い。今年は「最弱通貨」の汚名を返上することができるのか。反転上昇のために乗り越えなくてはならないハードルは多い。