ロンドンを拠点とするシンクタンクである「SustainAbility」は、欧州委員会からの受託調査である「サステナビリティ関連商品・サービスの現状に関する報告書(全214ページ)」で、ESG情報開示について8つの提言を示した。
提言では、「サステナビリティ関連のレーティングおよびデータプロバイダーの認証制度や監督体制の構築」など、業界基準の策定が必要と示された。さらに、「サステナビリティ関連商品への需要の高まりをうけ、市場への新規プレーヤーの参入が増加している。サービスを拡大するため、金融機関や調査会社による、この分野に特化したサービスプロバイダーの買収活動も活発化している」と記している。一方で、こうした商品やプロバイダーは、現在「当局による規制の対象外になっている」と指摘している。
欧州の金融当局の間では、ESGデータプロバイダーとその商品が規制対象外であることに対し懸念が高まっている。
2020年12月、欧州各国の証券規制機関のうち最大の影響力を持つフランスの金融市場庁(Autorité des Marchés Financiers)とオランダの金融市場庁(Autoriteit Financiële Markten)が、ESGデータプロバイダーを欧州証券市場監督局(ESMA)の監督下に置く案を提出した。ESMA自身はその数か月前、他の2つの金融規制当局である欧州銀行監督局と欧州保険・年金監督局とともに、ESGレーティングに関する「最低限の基準の策定とEUレベルでレーティングプロバイダーを監督する必要性」を訴えている。
SustainAbilityの報告書も、ESGデータプロバイダーに対する機関投資家の見解を公表している。調査企業のうち、既存のESGレーティングプロバイダーからの情報を、自社の「サステナビリティ投資のエクスポージャーおよび管理の諸慣行に正確に反映させている」と答えたのは19% であった。また、ESGデータプロバイダーから評価対象企業に対する「直接のエンゲージメント」がないことを懸念している声も聞かれ、「データの誤りを訂正しない」プロバイダーの事例も挙げられた。
「たとえESGデータプロバイダーとの適切なエンゲージメントが行われていなくても、企業が評価手法(メソドロジー)を知っていれば、スコア上昇のために施策を打てる可能性がある。しかし、評価手法を知らず適正なエンゲージメントも受けていない企業は、不利益を被りかねない。いずれにしても、ESGレーティングの正確性に懸念が残る」とSustainAbilityは警告している。
SustainAbilityは、ESGデータプロバイダーが採用する評価手法の透明性の欠如は、「投資家がデータの示す意味を理解せず、サステナビリティに関するレーティングをうのみにしてしまうことに繋がりかねない。自ら判断を下すことや、自らのサステナブル投資の目標達成に、こうしたレーティングが果たす役割について考えることをやめてしまうリスクもある」と警鐘を鳴らしている。
シュローダーでサステナブル投資部門のグローバル責任者を務めるアンディ・ハワード(Andy Howard)氏はRIの取材に対し「SustainAbility社の報告書は、以前から当社が指摘している多くの事項に言及している」と述べ、「レーティング会社の多くは堅固な評価プロセスを導入していると思われるが、投資家がこれらの指標を理解し、有効に活用するためには透明性が不可欠である」と指摘する。
SustainAbilityが公表した8つの提言は以下の通りである。
サステナビリティ関連のレーティング、データおよびリサーチプロバイダーは、
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- 具体的な評価基準や情報の参照先、ウェイトの理論的根拠、考慮する規範またはガイドラインなど、サステナビリティ評価手法を開示すること
- 認証制度の構築や適正な監督機関の任命を含め、業界基準を策定し適用すること
- 評価対象企業にサステナビリティ関連レーティング、データおよびリサーチ内容を共有すること。情報共有に課金はせず、公表前の成果物の取扱いに制限を設けること
- サービスの目的と適用される制約を明確化するため、利用者向けに説明文書を発行すること
- 利益相反の管理体制について情報を公開すること
アセットマネージャーは、
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- 投資運用実務におけるサステナビリティ要素の適用や投資先企業の分析におけるサステナビリティ課題の考慮状況、サステナビリティを論点に据えた企業とのエンゲージメント活動、リサーチ活動に占めるサステナビリティ投資関連の割合について情報を開示すること
- 情報開示の比較可能性、完全性、整合性および質の向上を目的とした、企業へのサステナビリティ関連情報の開示を促すアクションをとること
全ての市場参加者とステークホルダーは、
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- サステナブルファイナンスとサステナビリティ関連の商品・サービスで使われている専門用語や定義の一貫性を高め、サポート体制の強化を明確化し、サステナビリティ関連商品に対する市場プレーヤーの高まる関心に対応すること
※本稿は、レスポンシブル・インベスター(Responsible Investor)の掲載記事をQUICK ESG研究所が翻訳、編集したものです。同社は、ロンドンに拠点を置く、世界の機関投資家に向けた責任投資、ESG、サステナブル・ファイナンスを専門的に取り扱うニュースメディアです。
<金融用語>
エンゲージメントとは
エンゲージメントとは、「約束」、「取り決め」といった意味を持つ言葉であるが、ここでは機関投資家が企業に対して行う「建設的な目的をもった対話」のことを指す。投資家が、短期的なリターンを追い求めるのではなく、中長期的な視点で企業に働きかけることで、当該企業の持続的な成長と企業価値向上を促すことを目的とする。エンゲージメントの手段は、手紙、直接面談、役員との面談など。株主提案、議決権行使を含む場合もある。投資家はエンゲージメントに際し、企業の経営戦略や事業計画を調査しておく。そのうえで企業に考えを伝え、対話をすることによってスチュワードシップ活動の責任を果たす。 一対一で行うエンゲージメントだけではなく、複数の投資家が協力して行う場合もある(協働エンゲージメント)。(QUICK ESG研究所)