今回もアラベスクの同僚に登場頂く。今回は、アラベスクS―RayのESG応用研究を担当しているダニエル・ゲトラーが米ワシントン・ポスト紙に寄稿したオピニオン記事(Daniel Getler, The Washington Post, “Opinion: Why buying a Tesla with bitcoin would be environmentally unfriendly.” Feb 18, 2021)を中心に記したい。
先日、米テスラ社が仮想通貨ビットコインに15億ドル(約1575億円)投資したことを明らかにした。また、将来的に、同社の車をビットコイン等の仮想通貨で購入できるようにすることにも言及した。ガソリンを必要とせず、二酸化炭素を排出しない電気自動車のテスラ車は、脱炭素社会に最適な自動車メーカーとして評価はうなぎ登りに高まり、遂に時価総額で世界最大の自動車メーカーに上り詰め、その勢いは続いている。
■ビットコインは環境にポジティブか?
ビットコイン等の仮想通貨はオンライン上のみで存在し、紙幣や硬貨として製造されるものではない。製造を必要としないため、仮想通貨は環境に優しいのではないだろうかと考えてしまう。そのため、仮想通貨でテスラ車を購入することは、環境にとってこの上ないほどポジティブな行為に思える。
果たしてそうであろうか?
この問いに対し、同僚のダニエルは「この行為は却って偽善的である」と忠告する。その理由は、仮想通貨を利用するまでの過程で大量の電力を消費しているからだ。仮想通貨の代表的な通貨であるビットコインを利用するためにマイニングという行為を行わなければならない(仮想通貨を暗号資産ということがある。暗号資産という資産を採掘、すなわちマイニングするといい、マイニングする人をマイナーという)。
■「マイニング」で大量に必要とする電力消費
このマイニングは大量の電力を必要とし、全世界の年間の電力消費量の0.5パーセント相当がマイニングに充てられているとされている。もう少し身近な例を挙げると、ビットコインの1回の取引(マイニングによるビットコインの発行)で必要とされる電力は米国の平均的な家庭で消費する電力1カ月分に相当するといわれている。仮想通貨の取引所が複数存在しているので、仮想通貨そのものを売買することは容易である。しかし、多くのモノやサービスが今後、仮想通貨で取引されるようになると、仮想通貨の流通量を増やすためにマイニングは増加し、電力消費量も増えることになる。
つまり、仮想通貨の市場が拡大することは電力消費を増やすことになる。すでに世界の電力消費量の0.5パーセントにあたるということは、今後の仮想通貨の普及で、この比率は高まることが考えられる。ダニエルは、仮想通貨はもはや世界規模の一大産業とみなすことができるので、温室効果ガスの排出量についても国際的な規制を設けるべきであるとしている。各国政府は、脱炭素化の対応として製造業や運輸業の環境負荷を軽減することに躍起になっているが、仮想通貨の環境負荷を見落としていると思われる。
■マイニングで生じるCO2排出量、世界トップ10に入る企業に匹敵
英ケンブリッジ大学の調べでは、ビットコインのマイニングで生じるCO2排出量は5300万~1億2700万トン相当であるとしている。次表ではCO2排出量の大きな世界の主要企業を示している。マイニングが1億トン程度のCO2を排出していると考えると、CO2を排出する世界の主な上位10社のうち、7番目の英BPや8番目の日本製鉄と同程度のCO2排出量を出していることになる。
これら世界で最もCO2排出量を出している企業は公益事業や石油、鉄鋼産業の企業である。これらの産業は環境に負荷を掛けているために、企業は事業活動をしている国や地域の規制で脱炭素化を求められていると同時に、排出量の大きい事業は社会の生産活動、インフラ整備につながっている。しかし、ビットコインはそのような社会的責任も貢献も果たしていない。
マイニングの半数以上は中国と米国で行われている。中国は2060年までにネットゼロ経済に移行することをコミットした。米国もバイデン政権になったことで、積極的な脱炭素化の発表が期待される。米中の2カ国が仮想通貨のマイニングに関して環境負荷を軽減する規制を設けたり、マイニングに再生可能エネルギー利用を促すインセンティブを与えたりといった対策を早期に講じることは可能で、そこに期待したい。
ダニエルは次のように述べている。「ビットコイン等の仮想通貨の未来がどのようなものであろうと、私達は仮想通貨が環境にポジティブな影響を及ぼすことを確かにしていかなければならない」(アラベスクS-Ray社日本支店代表 雨宮寛)
雨宮 寛(あめみや・ひろし)
アラベスクS-Ray社日本支店代表。アラベスク・グループの日本事業の責任者。アラベスク以前は外資系金融機関で運用商品の開発に従事。CFA協会認定証券アナリスト。一般社団法人日本民間公益活動連携機構アドバイザー、明治大学公共政策大学院兼任講師。NPO法人ハンズオン東京副代表理事。ハーバード大学ケネディ行政大学院(MPA)、コロンビア大学経営大学院(MBA)。
なんでもありかよ!笑 そこら辺の小学生もお年玉で買ってもらったグラボの元取るためにマイニングして毎日1000円くらいみんな稼いでるぞ。